「で、お前はどう思ってるんだよ」
剣都が訊く。
「どうって、何が?」
「紅寧のこと。お前はどう思ってるんだ? 好きなのか?」
「さぁ、どうなんだろうな……」
大智は天を仰いだ。
「さぁってお前な」
剣都が言う。
その声には少しだけ怒りが込められていた。
大智は地面に視線を落として言う。
「わからないんだよ。俺自身、紅寧のことをどう想っているのかがな。紅寧のことはずっと本当の妹のように想ってきたんだ。急に恋愛対象として見れるかって訊かれても、正直よくわかんねぇんだよ。まぁ、そもそも紅寧から実際に告白を受けたわけじゃないしな。あくまで俺の推測で話ただけだ。これ以上、憶測で話をするのはやめようぜ」
その言葉を受けて、剣都は頷く。
「そっか。ま、それもそうだな。しかし、お前、これ、違ってたら相当恥ずかしいぞ」
大智はふっと一つ息を吐き、「だな」と言って、苦笑を浮かべた。
「なぁ、この際だ。改めて確認するけど……。大智、お前、愛莉のこと好きか?」
剣都が問う。
しかし、この質問に大智は答えなかった。
代わりに「お前は?」と剣都に質問を投げ返した。
「好きだ。大好きだ。約束のことがなけりゃ、とっくに告白してる」
「だろうな」
大智はそう言うと、再び天を仰いだ。
何か思うことがありそうな様子で夜空を見上げている。
「どうした?」
「なぁ、剣都。俺、最近思うことがあるんじゃけどさ」
剣都は「うん」と小さく頷いて、相槌を打つ。
「あの約束が、愛莉を、いや、愛莉だけじゃなくて、俺ら四人を縛ってるんじゃないかってな、最近思うようになったんだ」
「どうして?」
「ほら、俺らくらいの歳の恋愛ってさ、もっと心のままにというか、もっと自由にしていいはずだろ? けど、俺らはあの約束のことを気にするあまり、互いに遠慮しとるところがあるし、自らの気持ちを押し殺している」
「それはまぁ……。そう、だな……」
「だろ? 特に愛莉は自分が言い出した事じゃからって、どこかずっと自分を押さえつけてしまってる気がするんだ。俺らに気を遣って、自分の気持ちは後回しにしている。愛莉はそういう奴だからな」
「そうだな。それに愛莉は絶対に自分からは約束のことをなかったことにはしない」
「それなんだよ……。あいつ、変に頑固なところがあるからな」
大智は腕を組んで考え込んでいる。
「なぁ、剣都」
「ん?」
「俺は愛莉を約束の呪縛から解放してやりたいと思うとる。俺らとの約束なんか忘れて、愛莉の思うままに生きて欲しいと思うとる。その為にも俺は残りの三回のチャンスを死に物狂いで取りに行く。俺も約束を叶えて、愛莉を自由にさせてやる。絶対にな」
「なるほど……。お前の気持ちはよくわかった」
剣都はそう言うと、一つ息を吐いてから話を続けた。
「言われてみればそうだな。ガキの頃、何気なく交わした約束がずっと愛莉を縛りつけていたんだな……。愛莉には悪いことをしたな」
「あぁ……」
「しかし、あの約束がなかったら、俺らの関係、今頃どうなってたんだろうな。約束がなくても、愛莉は俺ら二人の内どちらかを好きになってたと思うか?」
「さぁな。それは愛莉にしかわからねぇことだろ」
(いや、誰にもわからねぇか……)剣都に言った後、大智はそう思った。
「そうだな。けど、他のやつだったらちょっとショックだな」
「まぁな。けど、側にはずっとお前がいたんだ。ちょっとやそっとの奴じゃ、あいつはふり向かなかっただろうよ」
「どうかな」
「あん?」
「俺は、愛莉はお前みたいな放っておけないタイプの奴の方が好きな感じがするけどな。だからあいつは千町を選んだんだ」
「違うだろ。俺のことは、ただ危なっかしくて、放っておけないだけだよ。あいつが俺の方を向いているのは、ただただ心配だからだよ。好きとかそういうんじゃねぇよ」
「お前、鋭いのか鈍いのかはっきりしろよ……」
剣都が小声で呟く。
「あん?」
「何でもねぇよ。ま、そうかもな」
「そうだぜ。あいつは多分、お前のことが好きなんだからな」
(たくっ。こいつ、何で愛莉に関してはこうも鈍いかな……)
剣都は呆れた目で大智を見ていた。
「そうだ、大智。一つ言い忘れてたことがあるんじゃけど、ええか?」
「何だ?」
「俺はどんな理由があろうと、お前が愛莉の為を思っていようと、甲子園だけは一度たりとも譲る気はないからな」
「たりめぇだろ。んなこと言われなくてもわかってるよ」
「負けても恨むなよ」
「恨まねぇよ」
「けど、甲子園に出られなかったら、さっきの話、どうするつもりだ?」
「今からダメだった時のことなんか考えてねぇよ。どこに試合する前から負けた時のことを考える奴がいんだよ」
それを聞いて、剣都はふっと息を吐いて微笑を浮かべた。
「そうだな。悪かったよ」
「ま、もし仮に俺が甲子園に行けなかったとしても、その後の心配はしてねぇけどな」
大智が小声で呟く。
「あん?」
「何でもねぇよ。とにかく、俺はお前を、港東を倒して、絶対に甲子園に行くからな」
「おう。いつでもかかってこい。待ってるからな」
剣都がそう言い終わると、二人は互いの拳をぶつけ合い、静かにその場を後にした。
剣都が訊く。
「どうって、何が?」
「紅寧のこと。お前はどう思ってるんだ? 好きなのか?」
「さぁ、どうなんだろうな……」
大智は天を仰いだ。
「さぁってお前な」
剣都が言う。
その声には少しだけ怒りが込められていた。
大智は地面に視線を落として言う。
「わからないんだよ。俺自身、紅寧のことをどう想っているのかがな。紅寧のことはずっと本当の妹のように想ってきたんだ。急に恋愛対象として見れるかって訊かれても、正直よくわかんねぇんだよ。まぁ、そもそも紅寧から実際に告白を受けたわけじゃないしな。あくまで俺の推測で話ただけだ。これ以上、憶測で話をするのはやめようぜ」
その言葉を受けて、剣都は頷く。
「そっか。ま、それもそうだな。しかし、お前、これ、違ってたら相当恥ずかしいぞ」
大智はふっと一つ息を吐き、「だな」と言って、苦笑を浮かべた。
「なぁ、この際だ。改めて確認するけど……。大智、お前、愛莉のこと好きか?」
剣都が問う。
しかし、この質問に大智は答えなかった。
代わりに「お前は?」と剣都に質問を投げ返した。
「好きだ。大好きだ。約束のことがなけりゃ、とっくに告白してる」
「だろうな」
大智はそう言うと、再び天を仰いだ。
何か思うことがありそうな様子で夜空を見上げている。
「どうした?」
「なぁ、剣都。俺、最近思うことがあるんじゃけどさ」
剣都は「うん」と小さく頷いて、相槌を打つ。
「あの約束が、愛莉を、いや、愛莉だけじゃなくて、俺ら四人を縛ってるんじゃないかってな、最近思うようになったんだ」
「どうして?」
「ほら、俺らくらいの歳の恋愛ってさ、もっと心のままにというか、もっと自由にしていいはずだろ? けど、俺らはあの約束のことを気にするあまり、互いに遠慮しとるところがあるし、自らの気持ちを押し殺している」
「それはまぁ……。そう、だな……」
「だろ? 特に愛莉は自分が言い出した事じゃからって、どこかずっと自分を押さえつけてしまってる気がするんだ。俺らに気を遣って、自分の気持ちは後回しにしている。愛莉はそういう奴だからな」
「そうだな。それに愛莉は絶対に自分からは約束のことをなかったことにはしない」
「それなんだよ……。あいつ、変に頑固なところがあるからな」
大智は腕を組んで考え込んでいる。
「なぁ、剣都」
「ん?」
「俺は愛莉を約束の呪縛から解放してやりたいと思うとる。俺らとの約束なんか忘れて、愛莉の思うままに生きて欲しいと思うとる。その為にも俺は残りの三回のチャンスを死に物狂いで取りに行く。俺も約束を叶えて、愛莉を自由にさせてやる。絶対にな」
「なるほど……。お前の気持ちはよくわかった」
剣都はそう言うと、一つ息を吐いてから話を続けた。
「言われてみればそうだな。ガキの頃、何気なく交わした約束がずっと愛莉を縛りつけていたんだな……。愛莉には悪いことをしたな」
「あぁ……」
「しかし、あの約束がなかったら、俺らの関係、今頃どうなってたんだろうな。約束がなくても、愛莉は俺ら二人の内どちらかを好きになってたと思うか?」
「さぁな。それは愛莉にしかわからねぇことだろ」
(いや、誰にもわからねぇか……)剣都に言った後、大智はそう思った。
「そうだな。けど、他のやつだったらちょっとショックだな」
「まぁな。けど、側にはずっとお前がいたんだ。ちょっとやそっとの奴じゃ、あいつはふり向かなかっただろうよ」
「どうかな」
「あん?」
「俺は、愛莉はお前みたいな放っておけないタイプの奴の方が好きな感じがするけどな。だからあいつは千町を選んだんだ」
「違うだろ。俺のことは、ただ危なっかしくて、放っておけないだけだよ。あいつが俺の方を向いているのは、ただただ心配だからだよ。好きとかそういうんじゃねぇよ」
「お前、鋭いのか鈍いのかはっきりしろよ……」
剣都が小声で呟く。
「あん?」
「何でもねぇよ。ま、そうかもな」
「そうだぜ。あいつは多分、お前のことが好きなんだからな」
(たくっ。こいつ、何で愛莉に関してはこうも鈍いかな……)
剣都は呆れた目で大智を見ていた。
「そうだ、大智。一つ言い忘れてたことがあるんじゃけど、ええか?」
「何だ?」
「俺はどんな理由があろうと、お前が愛莉の為を思っていようと、甲子園だけは一度たりとも譲る気はないからな」
「たりめぇだろ。んなこと言われなくてもわかってるよ」
「負けても恨むなよ」
「恨まねぇよ」
「けど、甲子園に出られなかったら、さっきの話、どうするつもりだ?」
「今からダメだった時のことなんか考えてねぇよ。どこに試合する前から負けた時のことを考える奴がいんだよ」
それを聞いて、剣都はふっと息を吐いて微笑を浮かべた。
「そうだな。悪かったよ」
「ま、もし仮に俺が甲子園に行けなかったとしても、その後の心配はしてねぇけどな」
大智が小声で呟く。
「あん?」
「何でもねぇよ。とにかく、俺はお前を、港東を倒して、絶対に甲子園に行くからな」
「おう。いつでもかかってこい。待ってるからな」
剣都がそう言い終わると、二人は互いの拳をぶつけ合い、静かにその場を後にした。