「あ~あ」
 大智が剣都を横目で見ながら呟く。
「え? 俺、何かまずいことこと言ったか?」
 戸惑う剣都。
 何故、紅寧が家に入って行ったのか全く見当がついていない。
「言ったんじゃね?」
「えっ、どれがまずかった?」
 剣都は大智に助けを求めた。
 だが、大智の反応は冷たい。
「さぁな」
「さぁなってお前な。他人事だと思いやがって」
「他人事だろ?」
 興味なさそうに言う大智。
「なっ」
 剣都は眉間に皺を寄せていた。
「冗談だよ。まぁ、確証があるわけじゃねぇから、一概には言えんけど……」
「心当たりがあるのか?」
「多分じゃけど、お前が、紅寧は昔から俺に懐いてるって言ったとこら辺じゃないか? あの後、急に慌てたようになってたし」
「あぁ、そうだったな」
 剣都が小刻みに頷く。
「なぁ、剣都。お前、紅寧は昔から俺のことが好きだったって言ったよな」
「ん? あぁ、言った。言ったけど、それがどうかしたか?」
「それってどういう意味だ?」
 大智の目つきが変わる。真剣みを帯びるようになっていた。
 そんな大智の目つきに剣都は少し気圧されていた。
「どういう意味って、そりゃあ、お前は紅寧からしたら幼馴染の優しいお兄さんだからな。上手くは言えんけど、家族と言うか、身内と言うか……。まぁ、そんな感じの意味でだよ」
「なるほどな」
 大智は腕を組んで頷いていた。
「あん?」
「多分じゃけど、紅寧はお前の言葉をそういう風には捉えてないと思うぞ?」
「と、言うと?」
「紅寧はお前が秘密をばらしたと思ってんだよ」
 剣都の眉間に皺が寄る。
「はぁ? 何でそうなる。俺がいつ紅寧の秘密をばらしたよ」
「紅寧は俺のことが好きだってやつだよ」
「は? 何でそれが秘密をばらしたことになるんだよ。紅寧がお前のことを好きなのは、昔から一目瞭然のことだっただろ?」
「あぁ。けど、多分、今は違うんだよ」
「今は違う? 何が違うんだ?」
「まだ確信があるわけじゃねぇけど……。多分、紅寧は俺のことが好きなんだよ。恋愛対象として……、な」
「それ……、自分で言う?」
「だから、多分つったろ。偶にあんだよ。もしかしたらそうなんかもなって感じることが」
「例えば?」
「前に紅寧と二人で遊園地に行った時にな……」
「は? いつ?」
「三月の終わり。お前の選抜一回戦の日だよ」
「おいおい。お前ら応援してくれてなかったのかよ」
「しゃあねぇだろ。その日しかなかったんだから。いいだろ? 勝ったんだから。それに、お前は愛莉が応援してれば十分だろ。あ! つかお前、愛莉と付き合ってるって噂、流れてんだろ」
「みたいだな」
「みたいだなってお前」
「どっかの無責任な奴が勝手に言い出しことだ。気にすんな」
「気にすんなってお前な……。愛莉は何て言ってんだよ」
「愛莉も気にしないって言ってくれてるよ。間違った噂でも広まっちまった以上、消すのは困難だしな。男女のことに関しては特にな」
「まぁ、確かに」
「ま、その話はまた今度だ。今は紅寧のこと優先だからな。んで、遊園地に行った時にどうしたって?」
「あぁ。二人で遊園地に行った時にな、まぁ、詳しくは話せんけど」
「は? 何、お前。まさか紅寧に変なことしたんじゃねぇだろうな」
「してねぇよ。紅寧は俺にとっても妹みたいなもんなんだぞ。んなことするかよ」
「だよな。じゃあ、詳しく教えろよ。何があったんだ?」
「教えねぇよ。お前に話すと話が拗れそうだからな」
「おいおい。俺のこと、信用してねぇのかよ」
「してねぇよ。紅寧に関することだけはな。お前、何故か妹との関わり方だけは異様に下手だからな」
「しれっと酷ぇこと言うな」
 大智のあまりにストレートなもの言いに、剣都は冷汗を垂らす。
「事実なんだから仕方ねぇだろ」
「んなら、詳しいことは聞かんとくわ。けど、言える範囲でええから続き放してくれよ」
「わかったよ。まぁ、簡潔に言えば、その時にいつもと少し違う感じがしたんだよ」
「いや、簡潔過ぎだろ……」
 剣都は唖然とする。
「これ以上はちょっとな。遊園地に行ったことも言ってよかったんかどうか……。あ、今までの話、全部聞かなかったことにしろよ。紅寧には絶対に話すんじゃねぇぞ」
「わかってるよ、それくらい」
「口を滑らせても言うなよ」
「口を滑らせた時点でもう言ってんじゃねぇか?」
 それを聞いて大智はきょとんとする。
「ん? あぁ、そうか……。て、んなこと、どうだっていいんだよ。とにかく、紅寧の前では絶対に口に出すなよ」。わかったな!」
「わかったよ。お前との約束だ。絶対に守るよ」
「頼むぞ」
「あぁ」