紅寧に言われた通り、ユニホームの上に制服を着て校門を出た大智。
側には通学に使っている自転車が置いてある。
大智が到着後、程なくして、紅寧も校門から出て来た。
「ごめん。待った?」
「いや、そんな待ってねぇよ」
「そっか。よかった。じゃあ、帰ろっか。はい、これ」
紅寧が箱の入った袋を大智に渡す。
袋を受け取った大智はすぐに中から箱を取り出した。
「何だこれ? 靴?」
「そっ。ランニングシューズ」
「は? え? どういう事?」
「そういうこと」
紅寧はニシシッと笑った。
「家まで……、走れってこと?」
大智が唖然とした様子で訊く。
しかし、紅寧は何も答えない。
ただ、ニコニコと笑っているだけである。
「あの~、こっから家までの距離知ってる?」
大智が今度は顔を引きつらせ訊く。
「勿論。大体、十キロくらいでしょ? 大丈夫。大兄なら一時間もかからずに帰れる距離だよ」
しかし、相変わらすニコッと笑っている紅寧。
「いや、そういうことじゃなくてだな……」
「ん?」
紅寧はきょとんとして首を傾げる。
「俺、練習で散々走っとんじゃけど……」
それを聞いた紅寧はあははっと笑った。
「足りない、足りない、あれくらいじゃ。今のままじゃ夏の連戦は乗り切れないよ」
「いや、しかしだな……。やり過ぎるのも良くないんじゃないか? ほら、もうシーズン始まっとるし」
「その辺はご心配なく。ちゃんとメニューは考えてますって。毎回、ただ十キロを走るだけじゃないから安心して。ま、今日は十キロ走だけどね」
それを聞いて、大智は苦笑を浮かべる。
「あれ? もしかして大兄、練習だけでもう限界?」
「バカ言え。なわけあるか」
反射的にそう答える大智。
「じゃあ、出来るよね?」
紅寧はいたずらっ子のような笑顔を浮かべる。
それを見て、大智は一瞬、やってしまったという顔を浮かべた。
しかし、すぐにキリッとした顔つきに戻る。
「た、たりめぇだろ。十キロだろうが、ニ十キロだろうが走ってやろうじゃねぇか」
「流石、大兄。頼もしい」
紅寧はふふっと笑った。
「じゃあ、そっち行って着替えよ。下にユニホームを着てるとは言え、校門の前で脱ぐわけにはいかないしね」
そう言って紅寧は物陰になりそうな場所を指差した。
移動を始める二人。大智は側に置いておいた自転車を押して行く。
人目につかない場所に移動した大智はすぐに制服を脱ぎ、シューズを履き替え、走る準備をする。
「てか、このシューズどうしたんだ? もしかして、紅寧が買ってくれたのか?」
大智が靴紐を結びながら訊いた。
「そうだよ」
「そうか……。なら、帰ったら払うよ」
「いいよ。それは私からのプレゼントだから」
「いや、そういうわけにはいかんだろ。そう安いもんでもないし」
「いいの! お金のことは気にしなくて。プレゼントだって言ってるんだから、素直に受け取ってよ」
紅寧は頬を膨らませて怒る。
「紅寧……」
そんな紅寧を大智は真っすぐ見つめた。
「……わかったよ。んじゃあ、これは有難く受け取っとくわ」
「うん」
紅寧は表情を笑顔に変えて頷く。
「代わりに、また何かお礼させろよな」
「いいの?」
「勿論。貰っといて、何も返さんわけにはいかんからな」
「じゃあ、あ……。今度の休み、市内にデ……」
紅寧はそこで一瞬、言葉を詰まらせた。
「で?」
そんな紅寧を見て大智は首を傾げる。
「で、出かけようよ。ほら、あの、駅前の商業施設」
紅寧の様子は何処かたどたどしい。
「あぁ、あそこな。いいぞ」
しかし、大智はあまり気にしていない様子だ。
「やった。じゃあ、約束ね」
「おう」
会話を終えると紅寧は、秘かにほっとした様子を浮かべていた。
「それにしても、大丈夫か? 荷物、二人分持って?」
大智の自転車には紅寧が乗って帰る。
荷物を持って走るわけにはいかないので、紅寧が二人分の荷物を持って、自転車に乗る。
自転車の前かごに大智のセカンドバッグ、自身の肩に自分のセカンドバッグをかけるというスタイルだ。
「大丈夫、大丈夫。ちゃんと乗れるって」
そう言って、余裕な表情を浮かべながら大智の自転車に乗ろうとする紅寧。
しかし、サドルが高く、上手く乗ることが出来ない。
自転車のサドルは百八十センチ近くある大智の身長に合わせて高めに調節してあるので、身長百五十センチちょっとしかない紅寧が乗るのはなかなかに危険である。大荷物を背負っているのだから尚更だ。
紅寧は何度か自転車に乗ろうと試みていたが、流石に無理だと悟ったのか、大智に助けを求めてきた。
「大兄……、高い」
涙目で訴える紅寧。
「下げちゃるわ。動かんようにハンドル持っといて」
「はーい」
紅寧はパッと表情を笑顔に変える。
返事をした紅寧はすぐに自転車のハンドルを握った。
紅寧がハンドルを握ったのを見ると大智は、すぐに自転車のサドルを下げにかかった。
「ほれ」
「ありがとう」
ぱぱっとサドルを下げた大智に、紅寧が笑顔でお礼を言った。
「うしっ。んじゃあ、一丁走りますか」
深く深呼吸をした後、大智が言った。
更に大智は、パンッと顔を叩いて気合を入れる。
「レッツゴー!」
やる気漲る大智を見て、紅寧は笑顔で拳を上に掲げた。
「しゃあ!」
まだ微かに紅さの残る四月の空の下。
大智と紅寧の通学ロードワークが始まった。
側には通学に使っている自転車が置いてある。
大智が到着後、程なくして、紅寧も校門から出て来た。
「ごめん。待った?」
「いや、そんな待ってねぇよ」
「そっか。よかった。じゃあ、帰ろっか。はい、これ」
紅寧が箱の入った袋を大智に渡す。
袋を受け取った大智はすぐに中から箱を取り出した。
「何だこれ? 靴?」
「そっ。ランニングシューズ」
「は? え? どういう事?」
「そういうこと」
紅寧はニシシッと笑った。
「家まで……、走れってこと?」
大智が唖然とした様子で訊く。
しかし、紅寧は何も答えない。
ただ、ニコニコと笑っているだけである。
「あの~、こっから家までの距離知ってる?」
大智が今度は顔を引きつらせ訊く。
「勿論。大体、十キロくらいでしょ? 大丈夫。大兄なら一時間もかからずに帰れる距離だよ」
しかし、相変わらすニコッと笑っている紅寧。
「いや、そういうことじゃなくてだな……」
「ん?」
紅寧はきょとんとして首を傾げる。
「俺、練習で散々走っとんじゃけど……」
それを聞いた紅寧はあははっと笑った。
「足りない、足りない、あれくらいじゃ。今のままじゃ夏の連戦は乗り切れないよ」
「いや、しかしだな……。やり過ぎるのも良くないんじゃないか? ほら、もうシーズン始まっとるし」
「その辺はご心配なく。ちゃんとメニューは考えてますって。毎回、ただ十キロを走るだけじゃないから安心して。ま、今日は十キロ走だけどね」
それを聞いて、大智は苦笑を浮かべる。
「あれ? もしかして大兄、練習だけでもう限界?」
「バカ言え。なわけあるか」
反射的にそう答える大智。
「じゃあ、出来るよね?」
紅寧はいたずらっ子のような笑顔を浮かべる。
それを見て、大智は一瞬、やってしまったという顔を浮かべた。
しかし、すぐにキリッとした顔つきに戻る。
「た、たりめぇだろ。十キロだろうが、ニ十キロだろうが走ってやろうじゃねぇか」
「流石、大兄。頼もしい」
紅寧はふふっと笑った。
「じゃあ、そっち行って着替えよ。下にユニホームを着てるとは言え、校門の前で脱ぐわけにはいかないしね」
そう言って紅寧は物陰になりそうな場所を指差した。
移動を始める二人。大智は側に置いておいた自転車を押して行く。
人目につかない場所に移動した大智はすぐに制服を脱ぎ、シューズを履き替え、走る準備をする。
「てか、このシューズどうしたんだ? もしかして、紅寧が買ってくれたのか?」
大智が靴紐を結びながら訊いた。
「そうだよ」
「そうか……。なら、帰ったら払うよ」
「いいよ。それは私からのプレゼントだから」
「いや、そういうわけにはいかんだろ。そう安いもんでもないし」
「いいの! お金のことは気にしなくて。プレゼントだって言ってるんだから、素直に受け取ってよ」
紅寧は頬を膨らませて怒る。
「紅寧……」
そんな紅寧を大智は真っすぐ見つめた。
「……わかったよ。んじゃあ、これは有難く受け取っとくわ」
「うん」
紅寧は表情を笑顔に変えて頷く。
「代わりに、また何かお礼させろよな」
「いいの?」
「勿論。貰っといて、何も返さんわけにはいかんからな」
「じゃあ、あ……。今度の休み、市内にデ……」
紅寧はそこで一瞬、言葉を詰まらせた。
「で?」
そんな紅寧を見て大智は首を傾げる。
「で、出かけようよ。ほら、あの、駅前の商業施設」
紅寧の様子は何処かたどたどしい。
「あぁ、あそこな。いいぞ」
しかし、大智はあまり気にしていない様子だ。
「やった。じゃあ、約束ね」
「おう」
会話を終えると紅寧は、秘かにほっとした様子を浮かべていた。
「それにしても、大丈夫か? 荷物、二人分持って?」
大智の自転車には紅寧が乗って帰る。
荷物を持って走るわけにはいかないので、紅寧が二人分の荷物を持って、自転車に乗る。
自転車の前かごに大智のセカンドバッグ、自身の肩に自分のセカンドバッグをかけるというスタイルだ。
「大丈夫、大丈夫。ちゃんと乗れるって」
そう言って、余裕な表情を浮かべながら大智の自転車に乗ろうとする紅寧。
しかし、サドルが高く、上手く乗ることが出来ない。
自転車のサドルは百八十センチ近くある大智の身長に合わせて高めに調節してあるので、身長百五十センチちょっとしかない紅寧が乗るのはなかなかに危険である。大荷物を背負っているのだから尚更だ。
紅寧は何度か自転車に乗ろうと試みていたが、流石に無理だと悟ったのか、大智に助けを求めてきた。
「大兄……、高い」
涙目で訴える紅寧。
「下げちゃるわ。動かんようにハンドル持っといて」
「はーい」
紅寧はパッと表情を笑顔に変える。
返事をした紅寧はすぐに自転車のハンドルを握った。
紅寧がハンドルを握ったのを見ると大智は、すぐに自転車のサドルを下げにかかった。
「ほれ」
「ありがとう」
ぱぱっとサドルを下げた大智に、紅寧が笑顔でお礼を言った。
「うしっ。んじゃあ、一丁走りますか」
深く深呼吸をした後、大智が言った。
更に大智は、パンッと顔を叩いて気合を入れる。
「レッツゴー!」
やる気漲る大智を見て、紅寧は笑顔で拳を上に掲げた。
「しゃあ!」
まだ微かに紅さの残る四月の空の下。
大智と紅寧の通学ロードワークが始まった。