太陽は傾き、パーク内を朱色に染める。
雑多だった人の動きが、次第に入り口ゲートへと向かうようになっていた。
帰りのバスの時間が迫っている大智と紅寧も入り口ゲートの方に向かう。
二人はゲートを出る前に入り口近くに設けられている土産物ショップに立ち寄った。
店内は二人と同じく、帰宅前にお土産を買おうとする人で溢れ返っていた。
「うわ~。凄い人……」
店内にごった返す人を見て、紅寧は唖然とする。
「だな……」
大智も呆然と店内を眺めていた。
二人は邪魔にならないよう、一旦店の外へ出て、相談を始めた。
「どうする?」
紅寧が訊く。
「う~ん。正直この中に入って行くのは気が進まんけど、どうせ他の店も同じような感じだよな~」
「多分ね……」
「だよな。つっても、他の店を見てる時間もないしな。てか、紅寧はここの店でいいのか?」
「うん。お土産に特にこだわりはないよ。何でもいいから買えたらそれで。大兄は?」
「俺も別に何でも大丈夫」
「じゃあ、決まりだね。ここにしよっか」
「おう」
そうして二人は再び店内へ入った。
ついさっき見て、店内の状況がわかっていたにも関わらず、店内に入った瞬間、大智は顔を引きつらせる。
紅寧も人の圧に圧倒されかけていた。
「そうだ!」
突然、紅寧が何かを思い付く。
「どうした?」
「大兄、手、出して」
紅寧にそう言われ、大智は不思議そうに首をひねりながらも、言われた通り、自身の右手を差し出した。
「あ、逆」
「あぁ、こっち?」
大智は右手を引っ込め、左手を差し出す。
「うん」
笑顔で頷く紅寧。
すると、紅寧は自身の右手で大智の左手を握った。
「えっ!? ちょっ、紅寧?」
突然紅寧に手を握られ、戸惑う大智。
「これではぐれる心配はないでしょ?」
紅寧はニッコリと笑顔を浮かべる。
その頬は微かに赤らんでいた。
「いや、それはそうかもしれんけど、手を繋ぐのは、ちょとな……」
「え~、いいじゃん。昔は良く手繋いでくれてたでしょ? あ、もしかして、大兄、照れてる?」
紅寧は意地の悪そうな顔で大智に訊いた。
「ばっ。そりゃあ、お前。高校生にもなって手を繋ぐなんて恥ずかしいに決まってんだろ。カップルじゃあるまいし……」
大智は紅寧から顔を背ける。
「カップルだったらいいの?」
すると突然、紅寧の発する声のトーンが真面目になった。
「え?」
その問いに大智は驚いた顔を浮かべ、紅寧を見た。
「カップルだったら、このまま何も言わず、繋いでてくれるの?」
紅寧は俯いている。
その声はどんどんと低く、重くなっていた。
「あ、いや、そういう意味で言ったんじゃ……」
大智はあたふたと顔を動かし、どうしたらいいのかわからない様子だった。
「な~んてね」
紅寧の表情と声色が急転する。
紅寧は笑顔を作り、声を明るめて言った。
「冗談だよ、冗談。私ももう子供じゃないんだから、それくらいわかってるよ。ただちょっと昔が懐かしくなっただけ」
紅寧はそう言うと、握っていた手を離した。
声を明るめて言う紅寧だが、その声にはどこか寂しさが混ざっている。
「行こっ、大兄。見て回る時間がなくなっちゃう」
紅寧はそう言うと、店の奥へと歩みを進めた。
「おう……」
大智は先ほどまでの紅寧の様子を気にしながらも、すぐに紅寧の隣に並び、一緒に歩いた。
だが、実際に人混みに入ると、どうしてもすぐに、はぐれそうになってしまう。
二人は逐一、互いの居場所を確認しながら、込み合う店内を進んで行った。
目ぼしい商品をいくつか見た後、二人は一旦、人混みの少ない場所に出た。
「手……」
突然、大智が紅寧の前に左手を差し出した。
ただ、恥ずかし気で、紅寧から顔は背けている。
「え?」
紅寧は驚いた顔を浮かべ、背けている大智の顔を見つめた。
「ん」
大智は紅寧の顔をチラッと見ると、差し出した手を軽く上下させた。
紅寧は顔を徐々に笑顔に変えていく。
そして、満面の笑みに変わった瞬間、紅寧は大智の手を握った。
紅寧が手を握ったのがわかった大智は紅寧に視線を向ける。
紅寧は大智と目が合うと、ニッコリと笑った。
そんな紅寧の嬉しそうな笑顔を見て、大智はまた顔を背ける。
その顔には照れと笑みが混在していた。
「とりあえず、今日だけだからな」
「とりあえずってことは、また繋いでくれるの?」
紅寧は期待を込めた声で訊く。
「その必要性があったらな」
「だよね……」紅寧は小声で呟く。
「そっか。了解」
紅寧は笑顔で返事を返した。
「あ~!」
ゲートを出た瞬間、突然、紅寧が叫ぶ。
「ど、どうした?」
その声に驚いた大智が訊く。
「写真……。撮ってない……」
紅寧は絶望した顔で、力なく佇ずんでいた。
「そう言えば撮ってなかったな」
一方、大智は平然としていた。
「どうしよう。もう時間がない……」
紅寧はそう呟きながら慌てて辺りを見渡した。
「あ! あそこ! 大兄、あそこをバックに撮ろ」
紅寧はゲートを出てすぐの所にある、モニュメントを指差している。
既に足はそこへ向かって動いていた。
「大兄、早く!」
紅寧は忙しなく大智を呼ぶ。
大智は急いで紅寧の後を追った。
適当な距離までモニュメントに近づいた紅寧は鞄からスマートフォンを取り出した。
カメラを内側にし、自撮り形式で写真を撮る準備をする。
そこへ大智が追いついて来た。
「大兄、早く、早く!」
紅寧が手招きをする。
「ここでいいのか?」
「うん。入って、入って」
大智はスマートフォンを構える紅寧の隣に少し離れて並んだ。
「大兄、もっと近く」
「お、おう」
大智はほんの少しだけ紅寧に近寄った。
「もっと。それじゃあ、カメラに入らないよ」
紅寧の頬が少しだけ膨れる。
大智はまたほんの少しだけ、紅寧に近づいた。
「も~う」
紅寧が完全に頬を膨らませる。
「こうなったら……。えい」
紅寧は自ら大智に近づいた。
紅寧と大智の体が触れる。
「ちょっ」
紅寧の体が触れ、大智は戸惑いの表情を浮かべる。
だが、大智が戸惑っている様子を気にすることなく、紅寧はスマートフォンを構えた。
「ほら撮るよ。大兄笑って。ハイ、チーズ!」
紅寧は近づいた勢いのまま、写真を撮った。
そして、撮った写真をすぐに確認する。
「うん、ちゃんと撮れてる。大兄の顔がちょっとぎこちないけど」
紅寧は撮った写真を見て、微笑んでいた。
「あ、やばっ。大兄、行こっ! バス来ちゃう」
紅寧が高速バスの停留所へ向かって一目散に走り出す。
大智は先を行く紅寧の背中を黙って追った。
帰りのバスの中。
無事、予定のバスに乗車した二人。
発車後、程なくして、大智はスヤスヤと眠り始めた。
眠った大智の横顔を紅寧はじっと見つめている。
「本当は怖いのに、ずっと我慢して付き合ってくれたもんね。お疲れ様」
紅寧はそう呟いて、微笑みを浮かべる。
「今日は本当にありがとう。すっごく楽しかったよ」
紅寧は眠る大智に向けてニコッと笑った。
静寂に包まれるバスの車内。
多くの乗客が、幸せそうな顔を浮かべて眠っている。
そんな中、目が冴えて眠れないでいる紅寧。
その肩には隣でスヤスヤと眠る大智の頭があった。
紅寧は大智の頭を肩に乗せたまま、乗車前に撮った大智とのツーショット写真をじっと見つめていた。
その顔は笑顔だが、どこか後悔の色が交じっているようにも見える。
「ちょっと、やり過ぎちゃったかな……」
紅寧がぼそりと呟く。
「でも、大兄は振り向いてくれないかもしれないけど。愛ちゃんには申し訳ないけど……」
紅寧は窓の外へと目を向ける。
「やっぱり私は、大兄のことが……」
車窓から見える遠くの街の灯りを、紅寧はじっと見つめた。
雑多だった人の動きが、次第に入り口ゲートへと向かうようになっていた。
帰りのバスの時間が迫っている大智と紅寧も入り口ゲートの方に向かう。
二人はゲートを出る前に入り口近くに設けられている土産物ショップに立ち寄った。
店内は二人と同じく、帰宅前にお土産を買おうとする人で溢れ返っていた。
「うわ~。凄い人……」
店内にごった返す人を見て、紅寧は唖然とする。
「だな……」
大智も呆然と店内を眺めていた。
二人は邪魔にならないよう、一旦店の外へ出て、相談を始めた。
「どうする?」
紅寧が訊く。
「う~ん。正直この中に入って行くのは気が進まんけど、どうせ他の店も同じような感じだよな~」
「多分ね……」
「だよな。つっても、他の店を見てる時間もないしな。てか、紅寧はここの店でいいのか?」
「うん。お土産に特にこだわりはないよ。何でもいいから買えたらそれで。大兄は?」
「俺も別に何でも大丈夫」
「じゃあ、決まりだね。ここにしよっか」
「おう」
そうして二人は再び店内へ入った。
ついさっき見て、店内の状況がわかっていたにも関わらず、店内に入った瞬間、大智は顔を引きつらせる。
紅寧も人の圧に圧倒されかけていた。
「そうだ!」
突然、紅寧が何かを思い付く。
「どうした?」
「大兄、手、出して」
紅寧にそう言われ、大智は不思議そうに首をひねりながらも、言われた通り、自身の右手を差し出した。
「あ、逆」
「あぁ、こっち?」
大智は右手を引っ込め、左手を差し出す。
「うん」
笑顔で頷く紅寧。
すると、紅寧は自身の右手で大智の左手を握った。
「えっ!? ちょっ、紅寧?」
突然紅寧に手を握られ、戸惑う大智。
「これではぐれる心配はないでしょ?」
紅寧はニッコリと笑顔を浮かべる。
その頬は微かに赤らんでいた。
「いや、それはそうかもしれんけど、手を繋ぐのは、ちょとな……」
「え~、いいじゃん。昔は良く手繋いでくれてたでしょ? あ、もしかして、大兄、照れてる?」
紅寧は意地の悪そうな顔で大智に訊いた。
「ばっ。そりゃあ、お前。高校生にもなって手を繋ぐなんて恥ずかしいに決まってんだろ。カップルじゃあるまいし……」
大智は紅寧から顔を背ける。
「カップルだったらいいの?」
すると突然、紅寧の発する声のトーンが真面目になった。
「え?」
その問いに大智は驚いた顔を浮かべ、紅寧を見た。
「カップルだったら、このまま何も言わず、繋いでてくれるの?」
紅寧は俯いている。
その声はどんどんと低く、重くなっていた。
「あ、いや、そういう意味で言ったんじゃ……」
大智はあたふたと顔を動かし、どうしたらいいのかわからない様子だった。
「な~んてね」
紅寧の表情と声色が急転する。
紅寧は笑顔を作り、声を明るめて言った。
「冗談だよ、冗談。私ももう子供じゃないんだから、それくらいわかってるよ。ただちょっと昔が懐かしくなっただけ」
紅寧はそう言うと、握っていた手を離した。
声を明るめて言う紅寧だが、その声にはどこか寂しさが混ざっている。
「行こっ、大兄。見て回る時間がなくなっちゃう」
紅寧はそう言うと、店の奥へと歩みを進めた。
「おう……」
大智は先ほどまでの紅寧の様子を気にしながらも、すぐに紅寧の隣に並び、一緒に歩いた。
だが、実際に人混みに入ると、どうしてもすぐに、はぐれそうになってしまう。
二人は逐一、互いの居場所を確認しながら、込み合う店内を進んで行った。
目ぼしい商品をいくつか見た後、二人は一旦、人混みの少ない場所に出た。
「手……」
突然、大智が紅寧の前に左手を差し出した。
ただ、恥ずかし気で、紅寧から顔は背けている。
「え?」
紅寧は驚いた顔を浮かべ、背けている大智の顔を見つめた。
「ん」
大智は紅寧の顔をチラッと見ると、差し出した手を軽く上下させた。
紅寧は顔を徐々に笑顔に変えていく。
そして、満面の笑みに変わった瞬間、紅寧は大智の手を握った。
紅寧が手を握ったのがわかった大智は紅寧に視線を向ける。
紅寧は大智と目が合うと、ニッコリと笑った。
そんな紅寧の嬉しそうな笑顔を見て、大智はまた顔を背ける。
その顔には照れと笑みが混在していた。
「とりあえず、今日だけだからな」
「とりあえずってことは、また繋いでくれるの?」
紅寧は期待を込めた声で訊く。
「その必要性があったらな」
「だよね……」紅寧は小声で呟く。
「そっか。了解」
紅寧は笑顔で返事を返した。
「あ~!」
ゲートを出た瞬間、突然、紅寧が叫ぶ。
「ど、どうした?」
その声に驚いた大智が訊く。
「写真……。撮ってない……」
紅寧は絶望した顔で、力なく佇ずんでいた。
「そう言えば撮ってなかったな」
一方、大智は平然としていた。
「どうしよう。もう時間がない……」
紅寧はそう呟きながら慌てて辺りを見渡した。
「あ! あそこ! 大兄、あそこをバックに撮ろ」
紅寧はゲートを出てすぐの所にある、モニュメントを指差している。
既に足はそこへ向かって動いていた。
「大兄、早く!」
紅寧は忙しなく大智を呼ぶ。
大智は急いで紅寧の後を追った。
適当な距離までモニュメントに近づいた紅寧は鞄からスマートフォンを取り出した。
カメラを内側にし、自撮り形式で写真を撮る準備をする。
そこへ大智が追いついて来た。
「大兄、早く、早く!」
紅寧が手招きをする。
「ここでいいのか?」
「うん。入って、入って」
大智はスマートフォンを構える紅寧の隣に少し離れて並んだ。
「大兄、もっと近く」
「お、おう」
大智はほんの少しだけ紅寧に近寄った。
「もっと。それじゃあ、カメラに入らないよ」
紅寧の頬が少しだけ膨れる。
大智はまたほんの少しだけ、紅寧に近づいた。
「も~う」
紅寧が完全に頬を膨らませる。
「こうなったら……。えい」
紅寧は自ら大智に近づいた。
紅寧と大智の体が触れる。
「ちょっ」
紅寧の体が触れ、大智は戸惑いの表情を浮かべる。
だが、大智が戸惑っている様子を気にすることなく、紅寧はスマートフォンを構えた。
「ほら撮るよ。大兄笑って。ハイ、チーズ!」
紅寧は近づいた勢いのまま、写真を撮った。
そして、撮った写真をすぐに確認する。
「うん、ちゃんと撮れてる。大兄の顔がちょっとぎこちないけど」
紅寧は撮った写真を見て、微笑んでいた。
「あ、やばっ。大兄、行こっ! バス来ちゃう」
紅寧が高速バスの停留所へ向かって一目散に走り出す。
大智は先を行く紅寧の背中を黙って追った。
帰りのバスの中。
無事、予定のバスに乗車した二人。
発車後、程なくして、大智はスヤスヤと眠り始めた。
眠った大智の横顔を紅寧はじっと見つめている。
「本当は怖いのに、ずっと我慢して付き合ってくれたもんね。お疲れ様」
紅寧はそう呟いて、微笑みを浮かべる。
「今日は本当にありがとう。すっごく楽しかったよ」
紅寧は眠る大智に向けてニコッと笑った。
静寂に包まれるバスの車内。
多くの乗客が、幸せそうな顔を浮かべて眠っている。
そんな中、目が冴えて眠れないでいる紅寧。
その肩には隣でスヤスヤと眠る大智の頭があった。
紅寧は大智の頭を肩に乗せたまま、乗車前に撮った大智とのツーショット写真をじっと見つめていた。
その顔は笑顔だが、どこか後悔の色が交じっているようにも見える。
「ちょっと、やり過ぎちゃったかな……」
紅寧がぼそりと呟く。
「でも、大兄は振り向いてくれないかもしれないけど。愛ちゃんには申し訳ないけど……」
紅寧は窓の外へと目を向ける。
「やっぱり私は、大兄のことが……」
車窓から見える遠くの街の灯りを、紅寧はじっと見つめた。