一方、グラウンドではスクイズを警戒した港東バッテリーが六番の木村を一塁へと歩かせていた。
空いていた一塁も埋まり、一アウト満塁となった。
一本出れば大量得点のチャンス。
しかし、塁が埋まったことで、内野ゴロを打った場合、ダブルプレーを取られると、一瞬にしてチャンスを潰してしまう可能性もある。
この後の結果次第で一気に試合の流れが変わる場面だ。
七番の加藤が右打席に入る。
「ここで加藤か……」
監督の藤原が腕組みをしながら難しい顔で呟く。
「加藤さんならタッチアップが期待できますね」
藤原の呟きに愛莉が反応する。
「あぁ。ただし……」
打席の加藤が初球を盛大に空振りする。
「当たればだけどな……」
藤原と愛莉は盛大に空振りをしてバランスを崩している加藤を見つめながら、冷汗を垂らしていた。
加藤は続く二球目もボールとバットの間を大きく空けて空振りをした。
「おいおい。今、ボールとバットの間が三十センチは空いてたんじゃないか?」
藤原が冷汗をかきながら言う。
すると次の瞬間、愛莉は突然ベンチから立ち上がると、ダグアウト前の手すりに手をかけ、バッターボックスの加藤めがけて思いっきり叫んだ。
「加藤さん! ボールをよく見て!」
愛莉の声が届いたのだろう、加藤はベンチの方に振り返った。
加藤は驚いた顔でベンチを見つめていたが、しばらくすると表情を落ち着け、一度だけ大きく首を縦に動かした。
加藤が頷いたのを見届け、愛莉は自身の場所に戻ろうと後ろに振り返る。
するとそこには両耳を手で覆い、苦笑いで立っている藤原の姿があった。
「意外と大きな声出せるのね」
「す、すみません!」
愛莉は急に我に返ったように慌てふためくと、顔を真っ赤に染め、すぐさまベンチに座り直した。
「いやいや、全然いいんだけどさ。というか、秋山ちゃんが叫んだ効果、あったみたいよ」
「へ?」
藤原はバッターボックスの加藤を指差した。
それを見て、愛莉はホームに目を向ける。
バッターボックスでバットを構える加藤からは先程までの硬さがなくなっていた。
そんな加藤の姿を見て、愛莉はほっとしたように一つ息を吐いた。
加藤に対しての三球目。
外に逃げるように変化する球を加藤は悠然と見送った。
「よしよし、ちゃんと見送ったな。けど、さっきまでの加藤だったら、いとも簡単に空振りしてただろうな」
「かも……、しれませんね」
愛莉は少し恥ずかしそうに藤原に返事を返した。
相手は四球目も外のボール球になる変化球を投げて来た。
だが今度は三球目よりも内側に来ている。
加藤はその球に思わずバットを出しそうになる。
が、何とかバットを出すのを堪えた。
これで二ボール二ストライク。
五球目。
内角、胸元へのストレート。
加藤はその球を反射的に打ちにいった。
だが、タイミングは遅い。空振り、良くても確実に詰まるタイミングだ。
加藤は持ち前のスイングスピードで辛うじてバットにボールを当てた。
しかし、当たった場所はバットの根っこ、グリップに近い部分。
加藤のバットからは鈍い金属音が響いた。
それでも力のある加藤のスイングは何とかボールを外野まで運んだ。
ボールはライト方向へ飛んで行く。
ライトに就く剣都はほぼ定位置の場所で足を止めていた。
「ちっ。微妙だな」
ライトが構えている位置を見て藤原が小さく呟く。
三塁ランナーの大智は、三塁ベースに付いて、いつでもスタートを切れる体勢を取っていた。
ボールが剣都の許へと落ちて来る。
剣都がグラブでボールを掴む。
その瞬間、大智はホーム目がけてスタートを切った。
ボールを掴んだ剣都は一瞬も躊躇することなく、流れるような一連の動作でホーム目がけてボールを投げた。
スタートを切った大智はただ一点、ホームベースだけを見つめて走っている。
大智がホームにヘッドスライディングで滑り込んだ。
一方、剣都からは初回と同様に矢のような送球が返って来た。
剣都からの送球を受けたキャッチャーが大智にタッチに行く。
外から見たタイミングは、ほぼ同時。
「アウト! アウト!」
審判の右拳が上がる。
大智の手は間一髪のところでキャッチャーのミットに妨げられ、ホームに届いていなかった。
アウトの判定を受けた大智がゆっくりとベンチに向かう。
全力疾走とヘッドスライディングで上半身を地面に打ち付けたせいで、大智の息遣いは荒くなっていた。
「ゆっくりでいいからな」
キャッチャーのポジションに向かう大森がすれ違いざま、大智に声をかける。
「あぁ」
大智は軽く頭を上下させながら答えた。
「はい、大智」
ベンチに帰って来た大智に愛莉が飲み物とグラブを渡す。
「さんきゅ」
大智は愛莉からグラブと紙コップを受け取ると、紙コップに入った飲み物を一気に口に入れた。
そして、もう一度お礼を言いながら空になった紙コップを愛莉に渡した。
「頑張って」
紙コップを受け取った愛莉が大智に声をかける。
「あぁ。行ってくる」
大智はそう言いながら帽子の位置を整えると、ベンチから飛び出して行った。
空いていた一塁も埋まり、一アウト満塁となった。
一本出れば大量得点のチャンス。
しかし、塁が埋まったことで、内野ゴロを打った場合、ダブルプレーを取られると、一瞬にしてチャンスを潰してしまう可能性もある。
この後の結果次第で一気に試合の流れが変わる場面だ。
七番の加藤が右打席に入る。
「ここで加藤か……」
監督の藤原が腕組みをしながら難しい顔で呟く。
「加藤さんならタッチアップが期待できますね」
藤原の呟きに愛莉が反応する。
「あぁ。ただし……」
打席の加藤が初球を盛大に空振りする。
「当たればだけどな……」
藤原と愛莉は盛大に空振りをしてバランスを崩している加藤を見つめながら、冷汗を垂らしていた。
加藤は続く二球目もボールとバットの間を大きく空けて空振りをした。
「おいおい。今、ボールとバットの間が三十センチは空いてたんじゃないか?」
藤原が冷汗をかきながら言う。
すると次の瞬間、愛莉は突然ベンチから立ち上がると、ダグアウト前の手すりに手をかけ、バッターボックスの加藤めがけて思いっきり叫んだ。
「加藤さん! ボールをよく見て!」
愛莉の声が届いたのだろう、加藤はベンチの方に振り返った。
加藤は驚いた顔でベンチを見つめていたが、しばらくすると表情を落ち着け、一度だけ大きく首を縦に動かした。
加藤が頷いたのを見届け、愛莉は自身の場所に戻ろうと後ろに振り返る。
するとそこには両耳を手で覆い、苦笑いで立っている藤原の姿があった。
「意外と大きな声出せるのね」
「す、すみません!」
愛莉は急に我に返ったように慌てふためくと、顔を真っ赤に染め、すぐさまベンチに座り直した。
「いやいや、全然いいんだけどさ。というか、秋山ちゃんが叫んだ効果、あったみたいよ」
「へ?」
藤原はバッターボックスの加藤を指差した。
それを見て、愛莉はホームに目を向ける。
バッターボックスでバットを構える加藤からは先程までの硬さがなくなっていた。
そんな加藤の姿を見て、愛莉はほっとしたように一つ息を吐いた。
加藤に対しての三球目。
外に逃げるように変化する球を加藤は悠然と見送った。
「よしよし、ちゃんと見送ったな。けど、さっきまでの加藤だったら、いとも簡単に空振りしてただろうな」
「かも……、しれませんね」
愛莉は少し恥ずかしそうに藤原に返事を返した。
相手は四球目も外のボール球になる変化球を投げて来た。
だが今度は三球目よりも内側に来ている。
加藤はその球に思わずバットを出しそうになる。
が、何とかバットを出すのを堪えた。
これで二ボール二ストライク。
五球目。
内角、胸元へのストレート。
加藤はその球を反射的に打ちにいった。
だが、タイミングは遅い。空振り、良くても確実に詰まるタイミングだ。
加藤は持ち前のスイングスピードで辛うじてバットにボールを当てた。
しかし、当たった場所はバットの根っこ、グリップに近い部分。
加藤のバットからは鈍い金属音が響いた。
それでも力のある加藤のスイングは何とかボールを外野まで運んだ。
ボールはライト方向へ飛んで行く。
ライトに就く剣都はほぼ定位置の場所で足を止めていた。
「ちっ。微妙だな」
ライトが構えている位置を見て藤原が小さく呟く。
三塁ランナーの大智は、三塁ベースに付いて、いつでもスタートを切れる体勢を取っていた。
ボールが剣都の許へと落ちて来る。
剣都がグラブでボールを掴む。
その瞬間、大智はホーム目がけてスタートを切った。
ボールを掴んだ剣都は一瞬も躊躇することなく、流れるような一連の動作でホーム目がけてボールを投げた。
スタートを切った大智はただ一点、ホームベースだけを見つめて走っている。
大智がホームにヘッドスライディングで滑り込んだ。
一方、剣都からは初回と同様に矢のような送球が返って来た。
剣都からの送球を受けたキャッチャーが大智にタッチに行く。
外から見たタイミングは、ほぼ同時。
「アウト! アウト!」
審判の右拳が上がる。
大智の手は間一髪のところでキャッチャーのミットに妨げられ、ホームに届いていなかった。
アウトの判定を受けた大智がゆっくりとベンチに向かう。
全力疾走とヘッドスライディングで上半身を地面に打ち付けたせいで、大智の息遣いは荒くなっていた。
「ゆっくりでいいからな」
キャッチャーのポジションに向かう大森がすれ違いざま、大智に声をかける。
「あぁ」
大智は軽く頭を上下させながら答えた。
「はい、大智」
ベンチに帰って来た大智に愛莉が飲み物とグラブを渡す。
「さんきゅ」
大智は愛莉からグラブと紙コップを受け取ると、紙コップに入った飲み物を一気に口に入れた。
そして、もう一度お礼を言いながら空になった紙コップを愛莉に渡した。
「頑張って」
紙コップを受け取った愛莉が大智に声をかける。
「あぁ。行ってくる」
大智はそう言いながら帽子の位置を整えると、ベンチから飛び出して行った。