東港高校のシートノックが終わった後、グラウンド整備が行われている間に大智は大森と軽くキャッチボールをして試合に備えた。
グラウンド整備が大方終わったところを見計らって二人はキャッチボールを終えた。
「いよいよだな。調子に乗って初回から飛ばし過ぎるなよ」
大森が大智にボールを手渡しながら言う。
「さっき同じことを言われたな」
「愛莉ちゃんにか?」
「あぁ」
大智は大森から受け取ったボールを手の上で適当に動かしながら呟くように返事をする。
「俺が言うまでもなかったみたいだな」
「いや。お前に言われなかったら初回から飛ばしてたよ」
大智は手にあるボールを軽く上に投げながら言う。
「だろうな。愛莉ちゃんからそんなこと言われたら、お前は意地でも初回から最後まで全力投球を続けようとしただろうな」
「流石は相棒。でも安心しろ。ちゃんとお前のリード通り投げるから。でも……」
大智はそこまで言うと、話すのを止めてしまった。
「でも、何だ?」
途中で話すのを止めた大智に大森が問いかける。
「最初だけ、最初の打席だけでいいから、剣都と真向勝負、させてくれないか?」
一度視線を地面に落としていた大智だったが、顔を上げると真っすぐな眼差しを大森に向けて言った。
「三年生の先輩にとっては最後の試合だぞ?」
大森は睨むような眼差しで大智に訊き返した。
「わがままなのは勿論わかっとる。だから最初の打席だけだ。最初の打席だけ、あいつと正面からぶつからせて欲しい。あとはちゃんとお前のリード通りに投げる。だから」
大智は深々と頭を下げて大森に頼み込んだ。
「条件がある」
目前で深々と頭を下げる大智の上から大森が呟くように言った。
「条件?」
大智が深々と下げていた頭を上げて訊く。
「一番を必ず押さえること。それができなかったら剣都と真向勝負の話はなしだぞ」
それを聞いた大智は顔をパアッと明るくした。
「あぁ、勿論。わがままを言うんだから、それくらい当たり前だ」
大智は目をキラキラとさせながら言った。
そんな大智の姿を大森は呆れ笑いを浮かべながら見ていた。
「で? 剣都を抑えられる自信は?」
「五分五分、かな? いや、四・六? いやいや、三・七かな? 二・八、かも……」
「お~い。どんどん自信なくなってんじゃねぇか」
大森が汗を垂らしながらツッコむ。
「ま、冗談はさせ置き。正直わかんねぇな。高校に入ってからのあいつのことは何も知らないしな」
「そっか……。ま、打たれたら、打たれただ。その後、ちゃんと俺らで点取り返して、責任取ろうぜ」
「俺ら? 剣都との勝負は俺のわがままだぞ?」
大智は怪訝そうな顔を浮かべて訊いた。
「バーカ。俺らはバッテリーだろ? 剣都との真向勝負を認めた時点で俺も同罪なんだよ」
大森はそう言うとふっと笑みを浮かべた。
「大森……」
「勝てよ。大智」
「あぁ!」
二人は互いに拳をぶつけあった。
「お願いします!」
球審の合図でホームベース前に整列した両軍の選手が互いに挨拶を交わす。
対面して並ぶと、何とか出場にこぎつけた千町高校と優勝候補の一角にも数えられる港東高校のメンバーとでは体つきが一回りも二回りも違うことが一目瞭然だった。
挨拶を終え、後攻の千町高校ナインがグラウンドに散らばって行く。
大智が投球練習を終えると大森がマウンドの大智の許へと駆け寄ってきた。
「とりあえず、剣都の打席が終わるまでは好きにしていいぞ。ただし、一番を出さなかったら、だけどな」
大森が念を押すように言う。
「出さねーよ。絶対にな」
大智はキッとした目で大森を見た。
「だろうな。楽しみにしてるぜ」
大森は微笑を浮かべながらそう言うと、大智の胸をミットで二度叩いた。
「あん?」
大智が首を傾げる。
「俺だって見たかったんだよ。お前たちの本当の真向勝負をな」
大森は笑顔でそう告げると、踵を返して自身のポジションへと帰って行った。
「たくっ。滾るねぇ」
大智は帽子の鍔を顔に被せるように被ると、ホームに背を向けた状態で天を仰いだ。
「プレイ!」
すべての準備が整ったことを確認した球審が試合開始の合図をかける。
一塁側の港東高校スタンドからは軽快な吹奏楽の演奏と甲子園を目指して初陣を戦うナインに向けての大声援が響き渡った。
だが大智はそんなまるでアウェイのような雰囲気など物ともしていないかのように、審判の合図を確認するとゆっくりとリラックスした状態で投球モーションに入った。
(余裕ぶっこいてたら、足下すくわれるぜ!)
大智が心の中で呟く。
大智はゆったりとしたフォームから一球目を投じた。
「ストライク!」
球審のコールが高々と響く。
その瞬間、スタンドからの声援が一瞬弱まった。
港東の一番バッター、杉山は軽く目を見開いて、驚いた表情をしていた。
二球目。
杉山が打ちにいく。
だが、大智の球はそのバットの上をすり抜けて大森のミットに収まった。
杉山は一球目よりも驚いた表情を浮かべると、ギッとマウンド上の大智を睨みつけた。
「睨んだところで打てるかよ!」
大智が三球目を投げる。
ストライクゾーン、三球勝負。
杉山はその球を打ちにいくが、バシッと大森のミットが音を上げた。
三球三振。
港東高校の一番を打つ杉山は信じられないといった表情で自軍のベンチへと引き上げていった。
港東ベンチも信じられないといった表情でバッターボックスから帰って来ているチームメイトの姿を見つめていた。
そんな中、ネクストバッターズサークルに座っていた剣都は口元をニッとさせ、不敵な微笑みを浮かべていた。だが目は燃え盛るようにギラギラとしている。
剣都はバッターボックスから帰ってくる杉山と入れ替わるようにバッターボックスへと向かった。
剣都が右打席に入り足場を整える。
まだ誰も使っていないバッターボックスに自身の足場を作って剣都はバットを構えた。
そして、キッとした目でマウンド上の大智を見つめた。
「あの日、誓った約束の幕開けだな」
大智が投球モーションに入りながら呟く。
「派手に行こうぜ!」
大智は一球目を投じた。
グラウンド整備が大方終わったところを見計らって二人はキャッチボールを終えた。
「いよいよだな。調子に乗って初回から飛ばし過ぎるなよ」
大森が大智にボールを手渡しながら言う。
「さっき同じことを言われたな」
「愛莉ちゃんにか?」
「あぁ」
大智は大森から受け取ったボールを手の上で適当に動かしながら呟くように返事をする。
「俺が言うまでもなかったみたいだな」
「いや。お前に言われなかったら初回から飛ばしてたよ」
大智は手にあるボールを軽く上に投げながら言う。
「だろうな。愛莉ちゃんからそんなこと言われたら、お前は意地でも初回から最後まで全力投球を続けようとしただろうな」
「流石は相棒。でも安心しろ。ちゃんとお前のリード通り投げるから。でも……」
大智はそこまで言うと、話すのを止めてしまった。
「でも、何だ?」
途中で話すのを止めた大智に大森が問いかける。
「最初だけ、最初の打席だけでいいから、剣都と真向勝負、させてくれないか?」
一度視線を地面に落としていた大智だったが、顔を上げると真っすぐな眼差しを大森に向けて言った。
「三年生の先輩にとっては最後の試合だぞ?」
大森は睨むような眼差しで大智に訊き返した。
「わがままなのは勿論わかっとる。だから最初の打席だけだ。最初の打席だけ、あいつと正面からぶつからせて欲しい。あとはちゃんとお前のリード通りに投げる。だから」
大智は深々と頭を下げて大森に頼み込んだ。
「条件がある」
目前で深々と頭を下げる大智の上から大森が呟くように言った。
「条件?」
大智が深々と下げていた頭を上げて訊く。
「一番を必ず押さえること。それができなかったら剣都と真向勝負の話はなしだぞ」
それを聞いた大智は顔をパアッと明るくした。
「あぁ、勿論。わがままを言うんだから、それくらい当たり前だ」
大智は目をキラキラとさせながら言った。
そんな大智の姿を大森は呆れ笑いを浮かべながら見ていた。
「で? 剣都を抑えられる自信は?」
「五分五分、かな? いや、四・六? いやいや、三・七かな? 二・八、かも……」
「お~い。どんどん自信なくなってんじゃねぇか」
大森が汗を垂らしながらツッコむ。
「ま、冗談はさせ置き。正直わかんねぇな。高校に入ってからのあいつのことは何も知らないしな」
「そっか……。ま、打たれたら、打たれただ。その後、ちゃんと俺らで点取り返して、責任取ろうぜ」
「俺ら? 剣都との勝負は俺のわがままだぞ?」
大智は怪訝そうな顔を浮かべて訊いた。
「バーカ。俺らはバッテリーだろ? 剣都との真向勝負を認めた時点で俺も同罪なんだよ」
大森はそう言うとふっと笑みを浮かべた。
「大森……」
「勝てよ。大智」
「あぁ!」
二人は互いに拳をぶつけあった。
「お願いします!」
球審の合図でホームベース前に整列した両軍の選手が互いに挨拶を交わす。
対面して並ぶと、何とか出場にこぎつけた千町高校と優勝候補の一角にも数えられる港東高校のメンバーとでは体つきが一回りも二回りも違うことが一目瞭然だった。
挨拶を終え、後攻の千町高校ナインがグラウンドに散らばって行く。
大智が投球練習を終えると大森がマウンドの大智の許へと駆け寄ってきた。
「とりあえず、剣都の打席が終わるまでは好きにしていいぞ。ただし、一番を出さなかったら、だけどな」
大森が念を押すように言う。
「出さねーよ。絶対にな」
大智はキッとした目で大森を見た。
「だろうな。楽しみにしてるぜ」
大森は微笑を浮かべながらそう言うと、大智の胸をミットで二度叩いた。
「あん?」
大智が首を傾げる。
「俺だって見たかったんだよ。お前たちの本当の真向勝負をな」
大森は笑顔でそう告げると、踵を返して自身のポジションへと帰って行った。
「たくっ。滾るねぇ」
大智は帽子の鍔を顔に被せるように被ると、ホームに背を向けた状態で天を仰いだ。
「プレイ!」
すべての準備が整ったことを確認した球審が試合開始の合図をかける。
一塁側の港東高校スタンドからは軽快な吹奏楽の演奏と甲子園を目指して初陣を戦うナインに向けての大声援が響き渡った。
だが大智はそんなまるでアウェイのような雰囲気など物ともしていないかのように、審判の合図を確認するとゆっくりとリラックスした状態で投球モーションに入った。
(余裕ぶっこいてたら、足下すくわれるぜ!)
大智が心の中で呟く。
大智はゆったりとしたフォームから一球目を投じた。
「ストライク!」
球審のコールが高々と響く。
その瞬間、スタンドからの声援が一瞬弱まった。
港東の一番バッター、杉山は軽く目を見開いて、驚いた表情をしていた。
二球目。
杉山が打ちにいく。
だが、大智の球はそのバットの上をすり抜けて大森のミットに収まった。
杉山は一球目よりも驚いた表情を浮かべると、ギッとマウンド上の大智を睨みつけた。
「睨んだところで打てるかよ!」
大智が三球目を投げる。
ストライクゾーン、三球勝負。
杉山はその球を打ちにいくが、バシッと大森のミットが音を上げた。
三球三振。
港東高校の一番を打つ杉山は信じられないといった表情で自軍のベンチへと引き上げていった。
港東ベンチも信じられないといった表情でバッターボックスから帰って来ているチームメイトの姿を見つめていた。
そんな中、ネクストバッターズサークルに座っていた剣都は口元をニッとさせ、不敵な微笑みを浮かべていた。だが目は燃え盛るようにギラギラとしている。
剣都はバッターボックスから帰ってくる杉山と入れ替わるようにバッターボックスへと向かった。
剣都が右打席に入り足場を整える。
まだ誰も使っていないバッターボックスに自身の足場を作って剣都はバットを構えた。
そして、キッとした目でマウンド上の大智を見つめた。
「あの日、誓った約束の幕開けだな」
大智が投球モーションに入りながら呟く。
「派手に行こうぜ!」
大智は一球目を投じた。