「剣都、何番で来ると思う?」
大智は地面に腰を下ろし、ストレッチをしながら側にいる大森に訊いた。
この日、第二試合に出場する千町高校は一試合目の試合経過を見て、補助グラウンドでアップを始めていた。
「どうだろうなぁ。練習試合では特に固定されてなかったしなぁ。あ~、でも、下位打線での出場が多かったよな。ま、結果は下位を打つような人間の成績じゃなかったけど」
大森は紅寧のノートしに記されていたことを思い出しながらそう言うと、苦笑を浮かべていた。
紅寧のノートには剣都に関しての詳しいデータや紅寧の見解は記されていなかったが、港東高校の春からの試合のスコアは記されていた。その為、剣都がこれまでどんな成績を残してきたのかは知りうることができていた。
「大方、今大会の秘密兵器扱いなんだろ」
大智が言う。
「多分な。多少、投手力に不安がある港東にとったら点はいくらでも取っておきたいだろうからな」
「たくっ。ただでさえ、強力打線だってのに、そこに剣都が入るとなったら少々のピッチャーじゃすぐに打ち込まれちまうぞ。それこそ、ほとんどの学校がコールドで試合が終わっちまう」
大智は眉間に皺を寄せていた。
「ま、それが狙いだろうな。投手力に不安がある分、早めに試合を終わらせたいんだろ」
大森が淡々と語る。
「ちっ。今更だけど、なかなかしんどいね~」
大智は帽子を脱いで頭を掻きながら言った。
「心配すんな。お前がいつも通り投げられれば、港東でもそう簡単には打てやしないよ。あ、でも、剣都の前にランナーは出すなよ」
「わかってるよ」
大智は吐き捨てるように答えた。
「お、キャプテン、帰って来たぞ」
大森がグラウンド入り口を指差して言う。
グラウンドの入り口にはオーダー票の交換に行っていたキャプテンの小林が戻って来ていた。
「キャプテン、先攻後攻どっちになりました?」
チームの許へ戻ってきた小林に大智が一番に駆け寄って訊いた。
「後攻だよ」
「後攻かぁ」
大智が少し残念そうな顔をする。
「あれ……。ダメ、だった?」
小林は不安そうな顔になって訊いた。
「あ、いえ、そんなつもりじゃ。すみません」
大智が焦るように謝る。そして続けた。
「ただ、先攻だったら相手が油断してくれているから点が取りやすいなと思っただけなんで。ほんとすみません。気にしないでください」
大智は申し訳なさそうに小林に理由を述べた。
「あ、それより、相手のオーダー票、見せてもらってもいいですか?」
大智は小林の持っていたオーダー票を指差して訊いた。
「あぁ。うん。はい、これ」
小林が大智の前にオーダー票を差し出す。
「ありがとうございます」
大智は小林にお礼を言ってオーダー票を受け取ると、すぐにオーダー票へと視線を落とした。
するとパッと目を見開いたかと思うと、次の瞬間、突然、大声で叫び出した。
「はああああああ!」
「ど、どうした!?」
側にいた大森はその大声に一度は体をのけ反らせるも、すぐさま元に直ると、大智の手からオーダー票を抜き取り、港東高校のオーダーを確認した。
「なにぃぃぃ!」
港東高校のオーダーを確認した大森が大智と同じように突然叫び出す。
「どど、どうしたの? 二人とも」
二人が急に叫び出したことに驚いた小林が二人に声をかけた。
「す、すみません。ちょっとあまりにも予想外なオーダーだったもんで」
小林の声で先に落ち着きを取り戻した大森が頭を掻きながら答える。
二人が叫んだ理由を聞いた小林だったが、大森が説明した内容に納得していないのか、首を傾げていた。
「そう? そんなに変なオーダーには見えないけど……。あ、でもこの二番の子は一年生だよね? 確かに港東みたいな強豪校で一年生が上位打線にいるのは珍しいことには珍しいけど、そんなに驚くことじゃないんじゃない?」
小林はそう言うと、もう一度首を傾げた。
「そいつが普通の一年生でしたらね?」
大智がぼそりと呟くように言う。その顔は小林の方ではなく、他方を向いていた。
「へ?」
小林が虚をつかれたような表情になる。
「そいつ、俺の幼馴染なんですよ」
「え? じゃあもしかして……」
小林がそう言うと、大智は小林の方に振り返った。
「えぇ。俺らの代、四番だった奴です」
「ええええええ! な、何でそんな子が二番に入ってるの?」
小林は二人ほどではないが、かなりの大きさの声を上げていた。
「さ、さぁ? こっちが訊きたいくらいなんで」
大智は小林のあまりの驚きように、少し当惑している様子だった。
「これはあれだな。最近流行りの二番最強説ってやつだな」
大森が大智と小林の会話に入ってきて言う。
「いや、冷静に分析してる場合か」
大智がツッコむ。
「キャッチャーだからな」
大森は堂々とした態度で返した。
「冷静に返してくんな」
大智が再びツッコミを入れる。
「まぁまぁ、落ち着けって。と言いたいところだけど……。改めて見るとえげつない打線だな」
大森は再び港東のオーダー票に目を落とすと、真顔になって言った。
「ど、どうしよう……」
それを聞いた小林がそわそわとし始める。
「落ち着いてください、キャプテン。相手の打順がどうであろうと、うちがやることは変わらないですよ」
大智は小林を落ち着かせるよう、優しい口調で言った。
大智に声をかけられた小林は動きがを少しずつ落ち着かせていった。
「そ、そうだよね。うちと港東との実力差を考えたら、今更相手打線がどうであれ関係ないよな。自分達の実力が出せたらそれでいいんだよな?」
小林は何かを求めるような目で大智を見た。
「えぇ。相手がどこであろうと、どうであろうと、俺たちは自分たちの野球をやればそれでいいんです」
大智は小林の不安を払拭するように、胸を張って力強く答えた。
「だよね。よし、どこまでできるかわからないけど、最後まで頑張ろう。うん、頑張ろう」
小林は自分を奮い立たせるよう、独り言のように言った。
その顔からは少しだけ不安が取り除かれているようだった。
「その意気です。先輩たちが後悔しないような試合にできるよう俺も頑張りますから」
大智は小林に向けて力強い目と笑顔を送った。
「うん。ありがとう。俺も春野の足を引っ張らないよう、精一杯頑張るよ」
小林はそうお礼と意気込みを述べると、笑顔を見せて、大智と大森の許から離れて行った。
「良かったのか? あれで」
小林が去った後、大森は怪訝そうな顔になって大智に訊いた。
「いいんだよ。俺たちは勝つつもりですなんて今言ったら余計に緊張させてしまうだけだろ?」
「そりゃ、まぁ、そうだな」
「試合中に、もしかしたらいけるかもって気持ちになって貰えればいいんだよ」
大智が一人アップを始めた小林を見ながら言う。
その言葉を聞いた大森はふっと息を一つだけ吐いてから話し始めた。
「そうだな。でもそうなると責任重大だぞ? 自信はあるのか?」
「自信がないやつがこんな大口叩くと思うか?」
大智はそう言うと大森の方を向いてニッと笑った。
それを見た大森は大智と同じようにニッと笑い返したかと思うと、大智の背中をバンッと叩いた。
それを受けた大智はゲホゲホと咳込んでいた。
「んだよ、急に」
大智がせき込みながら言う。
「いつも通りで安心したよ」
大森が微笑む。
「何を今更」
大智は軽く顔をしかめた。
「高校生になって初めての試合だからな。一応確認だよ、か、く、に、ん」
大森が大智に背中を向けながら言う。
「心配症だな……」
大智はそう言いながら眉をひそめていた。
「キャッチャーなもんでな。でも今ので大丈夫だってわかったよ。勝とうぜ、大智」
大森は大智の方に振り返ると、大智の目を真っすぐ見つめながら拳を体の前に出した。
それを見た大智は大森の拳に自分の拳を付き合わせた。
「あぁ」
大智は地面に腰を下ろし、ストレッチをしながら側にいる大森に訊いた。
この日、第二試合に出場する千町高校は一試合目の試合経過を見て、補助グラウンドでアップを始めていた。
「どうだろうなぁ。練習試合では特に固定されてなかったしなぁ。あ~、でも、下位打線での出場が多かったよな。ま、結果は下位を打つような人間の成績じゃなかったけど」
大森は紅寧のノートしに記されていたことを思い出しながらそう言うと、苦笑を浮かべていた。
紅寧のノートには剣都に関しての詳しいデータや紅寧の見解は記されていなかったが、港東高校の春からの試合のスコアは記されていた。その為、剣都がこれまでどんな成績を残してきたのかは知りうることができていた。
「大方、今大会の秘密兵器扱いなんだろ」
大智が言う。
「多分な。多少、投手力に不安がある港東にとったら点はいくらでも取っておきたいだろうからな」
「たくっ。ただでさえ、強力打線だってのに、そこに剣都が入るとなったら少々のピッチャーじゃすぐに打ち込まれちまうぞ。それこそ、ほとんどの学校がコールドで試合が終わっちまう」
大智は眉間に皺を寄せていた。
「ま、それが狙いだろうな。投手力に不安がある分、早めに試合を終わらせたいんだろ」
大森が淡々と語る。
「ちっ。今更だけど、なかなかしんどいね~」
大智は帽子を脱いで頭を掻きながら言った。
「心配すんな。お前がいつも通り投げられれば、港東でもそう簡単には打てやしないよ。あ、でも、剣都の前にランナーは出すなよ」
「わかってるよ」
大智は吐き捨てるように答えた。
「お、キャプテン、帰って来たぞ」
大森がグラウンド入り口を指差して言う。
グラウンドの入り口にはオーダー票の交換に行っていたキャプテンの小林が戻って来ていた。
「キャプテン、先攻後攻どっちになりました?」
チームの許へ戻ってきた小林に大智が一番に駆け寄って訊いた。
「後攻だよ」
「後攻かぁ」
大智が少し残念そうな顔をする。
「あれ……。ダメ、だった?」
小林は不安そうな顔になって訊いた。
「あ、いえ、そんなつもりじゃ。すみません」
大智が焦るように謝る。そして続けた。
「ただ、先攻だったら相手が油断してくれているから点が取りやすいなと思っただけなんで。ほんとすみません。気にしないでください」
大智は申し訳なさそうに小林に理由を述べた。
「あ、それより、相手のオーダー票、見せてもらってもいいですか?」
大智は小林の持っていたオーダー票を指差して訊いた。
「あぁ。うん。はい、これ」
小林が大智の前にオーダー票を差し出す。
「ありがとうございます」
大智は小林にお礼を言ってオーダー票を受け取ると、すぐにオーダー票へと視線を落とした。
するとパッと目を見開いたかと思うと、次の瞬間、突然、大声で叫び出した。
「はああああああ!」
「ど、どうした!?」
側にいた大森はその大声に一度は体をのけ反らせるも、すぐさま元に直ると、大智の手からオーダー票を抜き取り、港東高校のオーダーを確認した。
「なにぃぃぃ!」
港東高校のオーダーを確認した大森が大智と同じように突然叫び出す。
「どど、どうしたの? 二人とも」
二人が急に叫び出したことに驚いた小林が二人に声をかけた。
「す、すみません。ちょっとあまりにも予想外なオーダーだったもんで」
小林の声で先に落ち着きを取り戻した大森が頭を掻きながら答える。
二人が叫んだ理由を聞いた小林だったが、大森が説明した内容に納得していないのか、首を傾げていた。
「そう? そんなに変なオーダーには見えないけど……。あ、でもこの二番の子は一年生だよね? 確かに港東みたいな強豪校で一年生が上位打線にいるのは珍しいことには珍しいけど、そんなに驚くことじゃないんじゃない?」
小林はそう言うと、もう一度首を傾げた。
「そいつが普通の一年生でしたらね?」
大智がぼそりと呟くように言う。その顔は小林の方ではなく、他方を向いていた。
「へ?」
小林が虚をつかれたような表情になる。
「そいつ、俺の幼馴染なんですよ」
「え? じゃあもしかして……」
小林がそう言うと、大智は小林の方に振り返った。
「えぇ。俺らの代、四番だった奴です」
「ええええええ! な、何でそんな子が二番に入ってるの?」
小林は二人ほどではないが、かなりの大きさの声を上げていた。
「さ、さぁ? こっちが訊きたいくらいなんで」
大智は小林のあまりの驚きように、少し当惑している様子だった。
「これはあれだな。最近流行りの二番最強説ってやつだな」
大森が大智と小林の会話に入ってきて言う。
「いや、冷静に分析してる場合か」
大智がツッコむ。
「キャッチャーだからな」
大森は堂々とした態度で返した。
「冷静に返してくんな」
大智が再びツッコミを入れる。
「まぁまぁ、落ち着けって。と言いたいところだけど……。改めて見るとえげつない打線だな」
大森は再び港東のオーダー票に目を落とすと、真顔になって言った。
「ど、どうしよう……」
それを聞いた小林がそわそわとし始める。
「落ち着いてください、キャプテン。相手の打順がどうであろうと、うちがやることは変わらないですよ」
大智は小林を落ち着かせるよう、優しい口調で言った。
大智に声をかけられた小林は動きがを少しずつ落ち着かせていった。
「そ、そうだよね。うちと港東との実力差を考えたら、今更相手打線がどうであれ関係ないよな。自分達の実力が出せたらそれでいいんだよな?」
小林は何かを求めるような目で大智を見た。
「えぇ。相手がどこであろうと、どうであろうと、俺たちは自分たちの野球をやればそれでいいんです」
大智は小林の不安を払拭するように、胸を張って力強く答えた。
「だよね。よし、どこまでできるかわからないけど、最後まで頑張ろう。うん、頑張ろう」
小林は自分を奮い立たせるよう、独り言のように言った。
その顔からは少しだけ不安が取り除かれているようだった。
「その意気です。先輩たちが後悔しないような試合にできるよう俺も頑張りますから」
大智は小林に向けて力強い目と笑顔を送った。
「うん。ありがとう。俺も春野の足を引っ張らないよう、精一杯頑張るよ」
小林はそうお礼と意気込みを述べると、笑顔を見せて、大智と大森の許から離れて行った。
「良かったのか? あれで」
小林が去った後、大森は怪訝そうな顔になって大智に訊いた。
「いいんだよ。俺たちは勝つつもりですなんて今言ったら余計に緊張させてしまうだけだろ?」
「そりゃ、まぁ、そうだな」
「試合中に、もしかしたらいけるかもって気持ちになって貰えればいいんだよ」
大智が一人アップを始めた小林を見ながら言う。
その言葉を聞いた大森はふっと息を一つだけ吐いてから話し始めた。
「そうだな。でもそうなると責任重大だぞ? 自信はあるのか?」
「自信がないやつがこんな大口叩くと思うか?」
大智はそう言うと大森の方を向いてニッと笑った。
それを見た大森は大智と同じようにニッと笑い返したかと思うと、大智の背中をバンッと叩いた。
それを受けた大智はゲホゲホと咳込んでいた。
「んだよ、急に」
大智がせき込みながら言う。
「いつも通りで安心したよ」
大森が微笑む。
「何を今更」
大智は軽く顔をしかめた。
「高校生になって初めての試合だからな。一応確認だよ、か、く、に、ん」
大森が大智に背中を向けながら言う。
「心配症だな……」
大智はそう言いながら眉をひそめていた。
「キャッチャーなもんでな。でも今ので大丈夫だってわかったよ。勝とうぜ、大智」
大森は大智の方に振り返ると、大智の目を真っすぐ見つめながら拳を体の前に出した。
それを見た大智は大森の拳に自分の拳を付き合わせた。
「あぁ」