「ははっ。お前おもしれ~愛だよな、愛」


「うるさい!」


「あ~怒っちゃった?ごめんごめん。どれ電気消すぞ」


「消せ馬鹿!」


あたしは悠希に怒鳴り散らし、真っ暗になった部屋で興奮したまま目を瞑った。


悠希の魅力は計り知れない。


自分のペースが崩され、悠希のペースで物事が進んでいくのは戸惑うけれど、それがなぜか心地いい。


テレビも消され、静まり返る真っ暗な部屋。


眠りにつく準備を整え、布団を引っ張っていたら、悠希は何かを見計らったように口を開き始めた。


「じつは俺、歩にまだ言ってない話があんだよな」


「話?」


「うん。あのさ、俺、父親いないんだよね」


「えっ?」


さっきまでじゃれあっていたのにその悠希の一言で話の流れが瞬く間に変化し、冗談なんかいえそうにない。


心の準備をする暇もなく、あまりにも重たい話についていけるか戸惑いそうだ。


あたしにとっても父親の話は禁句だし…


「お父さんいないって…離婚したとか?」


人の家庭の事情を聞く時は、半端な気持ちで聞いてはいけない。


生き様を語るというのは心を開いてくれた証。


あたしを必要とし、信頼してくれた意味だ。


聞く側が関わる決心を固めた以上、相手のいい部分も複雑な部分も知ったうえで受け入れなければならない。