ちゃんと順を追って元をたどらなければどっちが悪いかなんてわからないが、悠希を完璧に疑っているあたしは絶対に自分に非はないと決めつけ、負けたくなかった。


「とにかくエッチ禁止!悠希も病院で検査しないとだめだって!」


「はぁ?マァ~ジかよぉ」


こんな時。


素直に“あたしのせいでごめんね”と言えたら可愛いのだろうが言えない損な性格。


素直に謝るのは苦手だし、恥ずかしいし、格好悪いと思っている。


年は大人なのに、頭と心は成長してないただの子供。


こんな女を相手にしている悠希は、何もかもが大変だったろう。


「マジだよ。あたしがなってるって事は悠希も可能性ありありなんだよ!わかったか、こら!」


「俺も病院かよ~ありえねえ」


攻撃的に話しかけていてもそんなものより性病の方がダメージは大きかったらしく、悠希はあたしにかかってくる気配すらない。


「とりあえず病院な」


「はぁ…わかった。俺休み取るわ。そん時は歩もこいよ」


「もち行くわい。休み決まったら即メールな」


「おう。じゃあな…」


「おうよ」


性病になるには必ずどちらかに非はある。


それを確かめなければ気が済まない。


白黒はっきりする為、あたしは悠希の病院に必ず着いて行くと決めた。



…そして決戦の日。


悠希は仕事を休まない人なのにわざわざ休みをとり、会社から離れた男性向けの個人病院へ一緒に向かってくれた。


小綺麗な清潔感のある待合室にはたくさんの男性患者。


その中に女はあたし一人。


場違いな空間で二人は受付を済ませ、椅子に座る。


隣に座る悠希は青ざめ、不安丸出しの表情だ。


「俺、何されるんだろ」


消え入りそうにぼそっと呟く悠希。


可哀想だけど、浮気の疑いを捨てきれないあたしは優しくなどしない。


「たぶん…精液を…」


驚かせようと声のトーンを落とし言いかけたら、悠希は今にも泣き出しそうな顔をして


「嫌だあぁ」


あたしの声を打ち消し、声にはきがない。


考えただけで男にとってこんな屈辱は悪夢だろう。


あたしも婦人科で屈辱を受けたから、形は違えどその部分はわかっているつもりだ。


待ち時間中、悠希は足を震わせたり、周りを無駄に見渡したり落ち着きがない。


それに比べ漫画本を手に持ち、バカ笑いをするあたしは薄情でふとどき者だ。


「林悠希さん。中へどうぞ」