軽い始まりだったじゃん……


こんな時なのに言葉もかけず、ただただ黙り、悠希の事を考える。


あたしの何を知ってるっていうの?


ずるくて、汚くて、男なんてどうでもいいって思いながら生きてきてたんだよ?


なぜ泣くの?どうして!?


考えていたら、あたしの目からなぜか大粒の涙がこぼれ落ちていた。


その時の感情はあやふやだけど、きっと嬉しくて泣いたんだと思う。


人に必要とされるのがこんなに心地よくて、温かくて。


不思議と涙は止まってくれなかった。


顔を見られたくなくて下を向き、こらえていたら逆に声まで出てきて格好悪い。


「なんで歩が泣くんだよ」


「わかんねぇよ…」


悠希と顔見合わせたら互いの顔がぐちゃぐちゃで、二人の情けない姿に笑いがこらえられなくて同時に


「「ぷっ」」


まるで重たい空気を破るかのように、二人は自然と吹き出した。


「あ~あっ。俺、女絡みで泣いたの初めて!」


悠希は洋服の袖で目元を二・三回拭い、笑顔を見せる。


その笑顔に濁りなどなく本当に眩しくて


こんなに真っ直ぐな人を騙してたなんて、自分が情けない。


「本当にごめんなさい。あたしって最低な奴…」


「歩?」


「もう今日で終わりだけど、最後に泣いてくれて嬉しかった」


あたしは悠希の目を見つめ、計算なんてしていない内から出た本音を呟いていた。


謝って済む問題じゃない。


問題じゃないが、自分が出来るのは謝るだけ。


もう悠希とはお別れだ。


いざ別れるとなると、なんか寂しくなっちゃう。


あたしは別れるのが惜しくなると尾を引くと思い、行動でしめそうとドアノブに手をかけ、車を降りようとした。


「何勝手に別れたつもりでいるの?」


後ろから聞こえる声に振り返り、悠希の顔を見ると、勢いよく手首をひっぱられた。


「俺、お前と別れねぇから。別れらんねぇから」


「あたしは慶太が…」


「慶太さんの件はもういい!忘れさせる!お前は俺の女だ!」


こんな酷い仕打ちをしたのに、それでも付き合っていこうとする悠希。


そんな悠希の姿にあ然とし、開いた口が塞がらない。