「緊張なんかしてませんよ!」


声を出せば出すほど裏声になり、やる行動全てが裏目に出てかっこ悪い姿をさらけ出してしまった。


穴があったら入りたい心境とは、まさにこんな時なのだろう。


目を見開き、訴えかけても後の祭りだったのか


「ふぅ~ん。そっか」


慶太さんにはお見通しだったらしく、本当は照れてんだろと言わんばかりに目じりを下げ笑っている。


憎らしくも見えるその笑顔。


なのに、なぜか憎めやしない…


「あ~っ。えっと…じつはあたし結構前から慶太さん知ってたんですよ」


慶太さんの姿を店で何度も目撃していた。


同業者だったせいか、遅い時間に飲みに来る慶太さん。


あたしが帰宅する時間にぶつかる機会が多く、すれ違ってしまい運悪く接客する機会はなかった。


それでも知ってるもんは知っている。


意識して見ていた事実には触れず、知っている事だけをアピールした。


「俺も歩ちゃん知ってたよ」


「はいっ!?えっ!なんで!?」


予想外の返答に一瞬で顔は火照り、嬉しさと恥ずかしさでちゃんと直視できず、手にした灰皿に力が入る。


どうしてあたしを知っているのだろう?


疑問が頭をよぎり、再び慶太さんに質問を投げかけた。


「あの…なんで知ってるんですか!?」



「ん?歩ちゃん智也(ともや)の元嫁だろ?」


「えっ!!」


驚きを隠せず声をあげたが、熱を帯びた顔から一気に血の気が引く。


きっと顔色は急激に青白くなっただろう。


「こいつもだけど、俺ら智也と地元同じだしあいつとは同級だから昔から知っててさ。んで友達づたいだけどここで働く歩ちゃんって子が智也の元嫁だって聞いてたんだよね」


智也とあたしの事情を知らない慶太さんは、スラスラとありのままを語りだした。


しかし、こっちにはこっちの事情がある。