間接キスなんて子供の悩みみたいな物なのに、あたしは知佳が許せないでいる。


知佳と会話をしているが、慶太の唇と知佳の唇がグラスを通し重なってしまった事が嫌過ぎて、いつまでもズルズル引きずってしまう。


苛立ちを消す為に酒を飲みまくっては、顔は笑い心で泣く。


ダサい。


カッコ悪過ぎる。


たかが間接キスなのにこんなにムキになるなんて。


惨めだ…


12時近くなると、店内のにぎわいは落ち着きをみせ、客がちらほら消え出した。


平日の居酒屋はどこも似たもので、皆明日の仕事を考え飲みを早めに切り上げる。


あたし以外の三人も昼をメインに仕事していて、時間も時間だと察し、飲み会を切り上げる事にした。


「悠希と二人で帰るけど慶太達はどうする?」


「あたし一人で帰れるから」


二人の出逢いは成功なのか不成立なのか確かめてみると、知佳は慶太の顔も見ずに即答で答えた。


二人の出逢いは不成立。


そうだとわかり、胸を撫で下ろし内心は“やった!”と叫びたいがさすがにそれは慶太に失礼だ。


「んじゃ、ここで解散ね」


「うん。また誘って。慶太さんと悠希君も気を付けて帰ってね」


慶太はすぐに帰ろうとする知佳の行動に不服そうな顔をしている。


結局携帯番号すら聞き出せず、物足りなかったのだろう。


焦がれ仕方ない慶太のそんな顔を見て、あたしはつらくてとてもじゃないがこの場にいられない。


ムカつく。


なんて顔してんだよ。


会計を済ませるとすぐに悠希の手を力いっぱい握りしめ


「バイバーイ」


「慶太さんまた…」


あたしは互いの挨拶もままならぬ状態で悠希の手を無理矢理引き、一切振り返りもせず店を出た。