「あ~っ。うん待ってる…じゃあね」


悠希に優しくされればされるほど罪悪感は増すばかりで、正直、優しくしないで欲しい。


だからあたしは悠希に対し、故意に心ない返事をして通話を終了させた。


「下に着いたから降りてきて」


通話を終了させてから20分後。


悠希から到着を知らせるメールが届く。


あたしの醜い計画も知らず、迎えに来てくれた悠希に会いづらい。


最悪だ…


重い腰を上げ、あたしは罪悪感を引きずり車に向かった。


車に乗り込むなり悠希は不思議そうに首をかしげ、あたしの全身を見渡す。


「あれ~今日感じ違うな」



「そう?いつもすっぴんばっか見てるから違く感じるんじゃないの?」


気合いを入れていたのだからいつもと違うのは当たり前。


毅然とした態度をとらなければ、不自然に思われてしまう。


「ふぅ~ん。まっ、可愛いからいいや」


意味ありげな言葉にひっかかったが、あえて突っ込まず前を向く。


悠希も無表情のまま前を向き、居酒屋へ車を走らせた。


発進してから数分後。


知佳から居酒屋に向かっているとお知らせメールが届いた。


きっと知佳に負けてしまうだろう。


だってあたしは知佳ほど可愛いくないから。


さっきまでの強気は消え去り、会う前から全てがうまくいかないうえに、可愛い知佳の存在で弱気に気持ちは転じていく。


でも、どうしても負けたくはない…


車が居酒屋に近くなるにつれ、外は宝石を散りばめたようにきらやかなネオンで眩しく、にぎやかな街並みに姿を変えていく。


悠希とあまり会話せず、盛り上がりにかけた状態で居酒屋の駐車場に着き、車を降りようとドアに手をかける。


すると悠希はあたしの手をグッと引き、身を引き寄せられ胸に顔が埋まる。


「今日、楽しもうな」


顔を挙げると、笑顔で話しかける悠希があたしにはどこか寂しげに見えて、うまく言葉が出ない。


「そうだね。楽しくか…」


こんな状況はなんなくかわせるはずなのに心は晴れず、手をゆっくりと振り払い、密着した体を離した。


車を降り、悠希からちょっと距離を置いて後ろに着いて歩き、居酒屋へ向かう。