強気で慶太を侮辱したわりに、頭には慶太の顔が浮かんで離れやしない。


慶太と別れた話をしたせいで自然と幸せな日々を思い出してしまった。


きっとその時、あたしはどんな顔をして話しているのか自分でも想像つかない沈んだを顔していただろう。


〜やっぱりコイツを落とさなきゃいけないんだ。やるしかねんだよ〜


あたしの中に宿るもう一人のあたしは待ってましたと顔を出し、決心が固まった瞬間だった。


慶太…


慶太…


さて、どうすっかな…



人をいたぶる前に品定めする悪魔は、唇を一舐めし、駆け引きの準備にとりかかる。


性悪なとんでもない悪魔がほくそ笑んでる。


「あのさ。ちゃんつけるのやめてくんない?なれてなくて。歩でいいから」


頭は酒の酔いでまだ鈍いが、男を落とす時、常に言っていたせいか反射的に口から発していたセリフ。


近付きたい奴には呼び捨てで呼ばせ、二人の距離を縮める作戦。


これで一気にことは進む。


「う、うん。歩は。歩は何才?」


「22だよ」


「タメじゃん!」


「あ~タメだったんだぁ…へぇ~」


悠希の年齢すら知らなかった。


慶太で頭を支配されていたから、いかに相手に興味がなかったのか自分でも驚く。


「んじゃ気使わなく話せるな~」


悠希は子供っぽく目を細め、笑っている。


透明感のあるとてもいい笑顔。


清い少年そのもの。


そんな吸い込まれてしまいそうな笑顔を振り払い


「ねぇ。慶太って会社でどんな感じなん?」


日頃の生活が見えない慶太をあたしより格段と知る悠希にさり気なく聞いてみた。


「すげぇいい先輩!一番優しいし、一番のりいいし。仕事は真面目にしてるよ」


「ふ〜ん。優しいんだぁ…歩には結構冷たかったけどね」


別れたと同時に急に冷たくなった慶太。


どんなに好きな男でも、冷たくされたら嫌みを一つくらい言いたくなるもんだ。


嫌みを言って気分が晴れるわけでもないのに。


逆に気持ちにもやがかかり、沈んでいく心…


「でもこうやって歩と会うきっかけくれたから俺は慶太さんに感謝だけど」


悠希は突然話の主旨を変え、なぜか顔を赤らめ妙に落ち着きがない。


悠希を見て、顔を赤らめた意味がわからなくて状況がつかめない。