電話で彼氏と別れ、数日後。


あたしは何のダメージも受けず、ネオン街の一角にある小さな飲み屋で夜の女へと変貌を遂げていた。


凛々しく化粧を塗った顔に、セットされた髪。


派手な衣装を着込み、誘惑する甘い香水を耳の後ろ、手首に振りかける。


人の山でごった返し、活気に満ち溢れている店内。


そこはまるで戦場のようだった。


「いらっしゃいませ!」


「ニューボトル入りま~す!」


「あはははっ!マジでウケる!」


互いの声で会話が聞きとりにくい賑わいをみせる店内は、常に満席で、ひっきりなしに予約の電話がかかってくる。


…世の中は不景気らしい。


けど、万札が飛び交うこの店に景気など関係ない。


それどころか、貢ぐのが趣味かと聞きたくなるくらい凄まじい勢いで金を落としていく客もいる。


騙されているとも気付かず、寄り添われただけで羽振り良くなる男達は、間抜け面で鼻の下を伸ばし、どいつもこいつも上機嫌だ。


男女の時間は金で成立し、疑似恋愛を楽しむ異色な空間。


そこであたしは女優になりきり、作り物の笑顔をとことん振りまいた。


「俺、歩ちゃんかなりタイプ。ねぇ携帯番号教えて~」


「え~っ。すぐ教えたら軽い女じゃん。もうちょい顔見に来てくれたらねっ」


「うまくかわしてぇ~この~」


「歩は深ぁ~い愛情を示してもらわなきゃ嫌なの。わがままだから」


ごった返す人に揉まれあわただしく過ぎ行く時間の中、今にも飲み込まれてしまいそうになりながら、冗談も交え媚びをうり続ける。内心は


あ~クソだりぃ客。早く酔い潰れてさっさと帰れっての!


客の襟首を掴み、無理矢理店の外へ押し出してしまいたい。


だがそんな気持ちを押し殺し、気性の荒い本当の「歩」に気付かれまいと、ひたすら本心を隠し続けた。