慶太の写真を持ち歩いてるなんて本人に知れたら引かれてしまう。


未練がましい女だと思われたくない。


念には念を押し、万が一に備え、写真は部屋に置いていく。


そこからなんだかんだ準備をしてから数分後、慶太からのメールが届き、サラッと画面を確認して鼻歌まじりにブーツを履く。


「鍵かけよ~し。うひっ」


今すぐ会える。


そう思うと嬉しくてつい浮かれてしまうが気を取り直し、外へと向かった。


ネオン街を通り抜け、約束の場所へ向かうが慶太の車は見当たらず、見馴れない車が止まっている。


「車違くね?ん、外車?BM!?」


見た目がやたら高そうな高級車に驚きつつ近くへ行くと、ライトでパッシングされ、あたしは眩しさに手をかざす。


ドアの横に近付き、顔を傾げかけたら窓が軽快に開き、慶太が現れた。


「あれ、お前一人?」


女の子を連れていなかったのが不満だったらしく、慶太はやる気のない表情を浮かべている。


同じ店で働く友達の瑠衣(るい)に来てもらう約束を取り付けていたのだが、ママに引き止められ瑠衣だけ後から時間差で来る事になっていたんだ。


「今からちゃんと来るから待ってて!」


あたしは慶太の顔を見てムッとし、刺々しく言葉を言い放ち、眉間に力を入れ睨んだ。


「来るんだな!?ならいいや。まず後ろ乗れや」


つい最近まで付き合っていた女なんかお構い無しなのか、人の気も知らないでまだ見ぬ女を求める慶太にますますムッときたが、とりあえず後部座席のドアを開け、無言で席に腰を掛けた。


車内は小音の洋楽が流れ、変に静かでとても居心地が悪い。


どうしても落ち着かず、腕を組んで貧乏揺すりをして黙りこんだ。


何気なく顔をあげると、フロントミラー越しに紹介される予定の男が微かに映っていた。


ちょっと気になり、さりげなく顔をチェックしようとしても車内は暗くて見えない。


いっちょやったるか…


あたしはどんな男か様子見がてら偵察しようと声をかけてみる行動に出る。


「うち歩。よろしく~」


「あ、ど~も~」


男の声は緊張しているせいか上擦り、笑いそうになるが、こらえて息を飲む。


男の声は柔らかい高音。


声質は結構好みで、印象は悪くない。


「あっ、ちょっと待って」


挨拶と同時に人影が見え、目を凝らししっかり確認したら、瑠衣が車を探しキョロキョロ周りを見渡している。