「歩ちゃんお疲れ!」


「はい!お疲れ様でした。お先失礼します」


仕事が終わり、その日稼いだ給料をママから受け取り、財布へ雑にしまう。


客を視界にも入れず、気持ちは外の世界へ一直線で、周りなど全く見えない。


あたしは店の歩から慶太に恋する歩へスイッチを切り替え、アパートまで息を切らし無我夢中で走った。


早く


早く!


部屋に着くなりクローゼットを開き、洋服を手当たり次第に取り出す。


タバコの匂いが染み付いた服を適当に脱ぎ捨て、下着姿で洗面台の鏡の前へ立つ。


目についた服を交互に肌の上へ当て、気に入ったデザインを床に並べ品定めした。


「派手過ぎず地味過ぎず、可愛らしくはどれよ!?」


いかにも気合いが入っている勝負服ではわざとらしい。


かといって手抜きだとは思われたくない。


「カジュアルに!これなら当たり障りなくて正解っしょ!でもバッタみたいかな?」


興奮気味に声を出し、ブーツに合わせやすいデニムのミニスカートと黄緑色のギャル風パーカーを選び身にまとうと、床に散らばる服を足で蹴飛ばし部屋へ戻った。


テーブルの前に座り、左手で慶太に送るメールを作成して右手で器用に化粧直しをする。


「今終わったから迎えに来て」


メールを瞬時に送信していつもより多めに香水を振り、完璧に身なりを整えた。


「到着するまで時間かかるし、一本位いいっしょ」


せっかくタバコの匂いの付いた服を着替えたのに誘惑に負け、タバコケースからタバコを抜き、至福の一服を味わう。


テレビも付けず、静まり返った部屋でゆっくり煙を吐き


「そういやぁどんな男連れてくんだ?」


何の気なしに口ずさむ。


慶太が連れてくる男に興味などかったし、聞きもしなかった。


まあ聞く隙も与えてはくれなかったけど…


利用するにしてもブサ男で終わってる奴じゃきつい。


ブサ男が体を求めてきたらどうしよう…


紹介しろと言ったのを少し後悔しつつ、これでもかと煙を思いきり吸い肺に押し込め、タバコの火を消した。


財布の中に万札が入っているか確認し、バッグを開け手探りで慶太の写真を取り出し、テーブルに置く。