「お前の店の下でいいんじゃねえか?」


「店の下…。ふうう~ん。んじゃ仕事終わり次第メールすっから。後でね」


「おう。じゃあな」


「はいはい、ババァ〜〜イ」


普通に考えて別れた男との会話ではないが、どんな形でも繋がっていたく、慶太の要求をすんなり飲んだ。


だが、通話が終了すると、心に穴が開いた感じがして黙り込んだ。


あたしは何をやっているんだ。


だせぇ女…


話したい、伝えたい言葉はもっとあったはずなのに、こんな時うまく伝えられない自分。


そんな自分の不甲斐なさに段々イライラしてくる。


気付けば仰向け状態だった体をねじり、目の前にある物を手当たり次第に投げつけていた。


“パリン”


ぶつかった衝撃で鏡はひび割れ、破片が部屋に散らばる。


「ああああっ!!伝わんねえ!」


自分の思いが伝わらなかったり、物事がうまくいかないと日頃からする行動。


感情をうまくコントロールできず、服やCD、雑誌にライター


間近にある物を手にとり夢中になって壊すと、狂ったようにゴミ箱へ押し付ける。


「これもいらない。これもこれも、いらない!全部いらない!」


怒りが込み上げると落ち着くまでひたすら繰り返し、手が痛くなろうともムキになって続けた。


「はぁ…はぁ…」


この姿は父が家族を捨て、忽然といなくなってから母が酔っぱらうとよくやっていた行動。


今考えると血は争えないものだとつくづく感じる。


きっと母も抱えきれない思いを人にはぶつけず、物にあたっていたのだろう。


ストレスは人の理性を飛ばし、狂わせてしまう。


幼い時から今までに築き上げられた精神と智也による過剰なストレス。


失う恐怖感や衰えていく体力に比例して、あたしは精神的にいっていた。


当の本人は立ち眩みが以前より回数が増えたとしか思っていない。


元々痩せてきてはいたが、智也との一件を期にこの頃からますます食事の量や回数が愕然と減り、胸苦しさや浮遊感が続いていたんだ。


時間を見つけやっと病院に行き、血液検査やCTを撮ってもどこにも異常が見当たらず、その日に帰される。


だから自分はおかしくないと思ってそのまま放っておいた。


“気の持ちよう”


そう自分に言い聞かせ生きていた。


でもこの間違った選択が尾を引き、体が蝕まれていたのではないと後々知る事となる。