「えっ!?なんてかかってきたん!?」


智也が電話をしたのは店にいる時だけだと思っていたから慶太の発言に驚き、声が裏返る。


「歩はこういう奴だの俺の元嫁だのやたらしつこくて参った。なんだかんだ言ったあげく喧嘩売ってくるしよ」


「嘘。最悪…」


あたしの頭には人を見下し、馬鹿にした顔で笑っている智也の顔が浮かび、打ち消そうときつく目を閉じた。


慶太に何か話そうと考えてもうまく言葉は出てくれず、つい黙り込んだ。


すると慶太は沈黙を破り、突然話し出した。


「あのさ。わりぃけどもう別れよう」


「えっ?」


「別れよう」


慶太から心無い口調で切り出された別れ。


当然の報いかもしれない。


でも失うなんて嫌。


純粋だった頃に戻れた気がしたんだもの。


絶対嫌。


「やだ、別れたくない!やだやだやだ!」


あまりにも唐突すぎてショックを通り越し、狂ったように声を出してなんとか繋ぎ止めようと駄々をこねる。


大好きで大好きで、こんなおかしくなるほど好きになった慶太を失うなんて考えられない。


あたしを見つめる瞳。


髪をかきあげる仕草。


二人で冗談を言い合った日。


体を重ねて得た喜び。


あたしは慶太にかけてみたかったんだ。


“愛”を教えて欲しかったんだ…


「なんと言われようが無理だから」


慶太の揺るがない決意は心無い口調から真っ直ぐあたしに伝わり、願いは虚しく砕け、確実に終わりを告げている。



それでも慶太にどんな話し方をされても不思議と沸き上がってくる感情があたしを占領しだす。


どんなに汚い手を使ってでも繋がっていたい。


絶対失いたくない。


慶太を失いたくないあたしは止まらぬ思いが先走り、気付けばとんでもない言葉を口にしていた。


「じゃあ男紹介してくれたら別れてやるよ」


ただの思い付きかもしれない。


けど他の言葉は全く浮かばなかった。


何もなかった。


もう口にしたからには引き返せるわけはなく、話しは進むしかない。


「わかった。んじゃ近いうち男紹介すっからお前とは今日でお別れな」


「あぁん。楽しみにしてっから」


強気に話しながらも頭は慶太で一杯で、やっぱり慶太が好きなんだと改めて感じる。


そう。


紹介された男と付き合えば慶太に繋がっていられる。


チャンスを伺ってまたタイミングを狙えばいいんだ。