「智也達はあたしがなんとかごまかすからバレないように帰る準備しろ」


「いいんですか?まだ客来るし、佐々木さんとこに戻るって言ってるし…さすがに挨拶しなきゃ…」


「今日は特別だ。ほれいいから早く!」


「あっ、はい」


ママが気を使って帰宅を薦めたのか申し訳なさから薦めたのかわからないが、久々に早く仕事をあがれるのが嬉しくて迷わず帰り支度をした。


ママが即座に次の女の子に指示を出し、席に着かせる手配をしている間にバッグを準備する。


あたしは智也が女の子に気をとられている隙に帰ろうとした。


「ちょい待て!今日は多めに渡すな」


ママに手を捕まれ驚いて振り返ると、日払いで貰っている給料に色を付けてくれ、手渡される。


「あ、給料。ありがとうございます」


「近いからって安心せず気をつけて帰れよ。明日もあるんだから頼んだぞ。お疲れ」


「はい。お先失礼します」


小声で会話を交わし、智也が横を向いている姿を確認し身を縮こませ、隠れ隠れ店を後にした。


階段を降り店の下に着くと、智也が追い掛けて来ないか気になり上を見上げる。


今のところ人の気配は感じない。


物音すらしない。


脱走は成功だ。


あたしはホッと胸を撫でおろし、アパートへの道のりを歩きだした。