「あ~俺、智也。わかるか?同級のさぁ。ああん、そうそう」


慶太に携帯が繋がったとわかり、無駄な抵抗をしても身を滅ぼすだけだと察し、あたしは拓の手を力一杯振り払った。


最悪。


いっそ死んで欲しい。


憎しみを持った奴が輪をかけ、自分に対し嫌がる事をしたら消えて欲しくなるのは当たり前。


智也に対する恐怖心や怒り。


そんな物は度を越え、メーターを振りきってる。


「あは。あははははっ。あはははは」


あたしはネジが取れたロボットみたいに壊れてしまい、わけもわからず笑いが止まらなくなっていた。


智也は笑っているあたしを横目で確認し、周りの人達に聞こえる声でわざとらしく会話を進める。


「お前、歩と付き合ってるらしいじゃん。大事にしてやってくれよ~俺の元嫁なんだから。だ・い・じ・に・だからな」


周りは一段とざわつき、口々に呟く声が嫌でも耳に聞こえる。


“嘘っ、あの人歩ちゃんの元旦那?”


“彼氏いるんだ”


“歩、バツイチだったの!?”


ずっと隠していたのに、夜の女として築いてきた地位は智也の存在により、ものの数秒で崩れ落ちる。


儚い程、あっという間に…


「なぁ~歩。慶太に言ってやったから。はは、はははははっ」


「帰って…」


「なんだよ」


「帰れ!!」


あたしはイスを蹴り倒して席を立ち、痛い視線を振り切り、トイレに駆け込んだ。


「もうやだ。あいつ死ね!死ね!」


人前で泣けないあたしはトイレで泣くしかなく、悔しさが抑えきれず涙が溢れ出る。


あんな男に散々振り回されて来たのに、これから先、いつまでも振り回され続けるのだろうか。


本当はこのまま店を飛び出てアパートに帰りたい。