「マズイと思ったんだけど昔から知ってるし、断れなかったんだよね」


ママは目を合わせたり反らしたり。


不自然で気まずそうにしている。


そんな無責任なママにあたしは強くイラッときて


「前来た時だって手つけられなかったじゃないですか!お客さんと喧嘩になるわ、いきなり瓶でひっぱたいて相手気絶させちゃうわ。今マスターいないし、誰も止められませんよ!!」


動揺を抑えきれず、智也が以前店に来た時に犯した過ちを必死で持ちだし、早く帰してと訴えかけたつもりだった。


智也は嫌がらせでありえない事件を持ち込む男だから。



「今回は大丈夫だぁあ。元旦那と思わずにただの客だと思え~」


そんな思いは届かず、ママは開き直ったのか、ヘラヘラ笑って全く相手にしてくれない。


この人は智也を甘くみてる。


冗談抜きで半端なくヤバイ男だ。


結婚生活をしていた時。


あたしの右腕の骨を折ろうとしたり、首を絞め気絶させる様な男がなぜわざわざここに来るのか。


あたしの顔を見て不適な笑みを浮かべたのか。


智也の性格や怖さをしっていただけにまた何か仕出かすのではないかと思い、手のひらから冷や汗が溢れ、心臓が激しく波打った。


「勘弁……」


「ん?何?」


「勘弁してください!智也だけは無理です!」


どんな嫌な客でもこなしてきたが今回ばかりは涙目になり、ママに思いをぶちまけていた。


助けてと言わんばかりに。


「歩ちゃん。それがさぁ智也が歩ちゃんと話ししたいんだって」


「ちょ、待ってください!絶対絶対嫌です!」


駄々をこねた事なんて一度もない。


40度近い高熱を出そうと出勤し、成人式だろうと出席せず店を優先して休まなかった。


店にひたすら尽くした。


ママは世間からハミ出し落ちこぼれのあたしをスカウトしてくれ感謝してるし、仕事が出来て尊敬してる。


でもこの時ばかりはママを見損なった。


あたしなんてこの人からしたら


どうでもいいんだ…


「なんもないから大丈夫大丈夫。ほれ仕事だ行ってこい」


「もういいです…」


背中を押され、無理矢理カウンターからホールへ押し出され、初めてママを睨んだ。


鉛のように重い足。


一歩一歩前に出し、智也の席の前へあたしは立つ。


「何!?なんか用でもあんの!?」


智也の顔を見るなり目はすわり、挨拶もせずにいきなり怒鳴り付ける。


「お~こえ~そんな怒んなよ。まず座れや」