そんな慶太を見て、この笑顔を失いたくないし、大切にしなきゃいけないと脳が答えを出している。


自分自身錯覚でも起こしてるのか戸惑ってしまうけど、本心から慶太を大切にしたいと思った。


絶望しかなく、何もかも見るもの全てがが色褪せていたのに、恋に落ちると目の前がほんのり淡く感じる不思議な感覚。


交われば交わるほど遠い昔に置き忘れた、人を好きになる思いが甦ってくる。


初めて会った日から指折り数える程度しか時間を重ねていないのに、あたしの中で会うたび慶太に増していく思いは偽りではなく、本物だった。


「なぁ~んか、歩おかしいや」


「元からおかしいだろ?」


熱を帯びた体が覚めやらぬまま服を着直していると、慶太は相変わらず毒を吐く。


「ああ!マジお前最悪!」


「歩ほどじゃねえよ」


慶太との間にあった距離はいつしか消え、自然体でいる自分。


慶太に出逢えてよかった。


そう胸に秘め、二人の時を楽しんだ。


時は刻々過ぎ行くものだが、二人でいる一分一秒に無駄はない。


全てが貴重な時間だ。


「んじゃ俺帰るな。仕事頑張れよ」


「ういっす。頑張らずに頑張ります」



あたしが仕事に行かなければいけなくなり、離れるのはツライかったけど玄関まで慶太を見送った。


扉を閉め、慶太が居なくなった部屋で一人、撮った写真を眺めニヤつく。


気持ち悪く口元を緩ませて。


「あっ。時間も時間だなぁ。もうちょい写真見てたいのに…でも仕事仕事」


時はそんな幸せなどお構い無しで、待ってはくれない。


急いでいつも通り身なりを整え、幸せを引きずったままあたしは渋々職場へ向かった。



だが、世の中そんなに甘いものではない。


幸せを手に入れかければまた災難は降ってくるものだ。


もし神がいるなら


“あたしが嫌いですか?平凡でいたいんですけどダメですか?”


とひざまずいて聞きたくなる。


なぜなら二度と会いたくない「あいつ」が嘲笑いあたしの目の前にやってくるから。


あいつはきっと恨んでいたんだと思う。


紙切れ一枚で夫婦になり、紙切れ一枚で他人になったあいつ。


あたしは夢なんか見ちゃいけないのかもしれない。


掴んだ幸せは


儚く散っていく事になるんだ…