「ってかさ、汚ねえ部屋って突っ込めよ」


「確かに酒くせぇし、お世話にも綺麗とはいえないけどなんか落ち着くな」


「えっ、落ち着くって…」


“落ち着く”と言う言葉に反応して顔がカァッと熱くなり、赤みがかった顔を見せたくなくてあたしは横を向きごまかした。


変にプライドの高い女がこんな情けない姿を見せられるわけがない。


カッコ悪い姿なんて見せたくない。


そんな焦りを見て慶太は面白がり


「な~に赤くなってんだか」


からかった笑みを浮かべ、完全にバカにしている。


好きと言われたわけでもないのに過剰反応し過ぎたあたしは、まさに地雷を踏んだ心境だ。


「元から赤いんです!!も・と・か・ら!」


「はいはい。元から赤いのね。一応聞いとくわ。本当お前はおもしろ女だよな」


慶太はからかって満足したのか、座ったままリラックス状態で背伸びして、首を左右に振っている。


「おっさんのくせに」


「ガキのくせに」


「あは、あははははっ」


「あははっ!かぶってんじゃねえよ」


二人は同時に笑い、緊張の糸はスルリとほどけ、あぐらをかき、そのまま時間を気にせずくだらない話しをしたり何度も冗談を言い合った。


慶太とのやり取りがあまりにも楽しくて、きっと一年分は笑ったと思う。


充実した会話は楽しかった。


でも、なかなか手を出してこない慶太。


そんな慶太にあたしは苛つきと物足りなさを感じている。



何時間か過ぎ、暗かった外の世界が徐々に明るくなった頃。


慶太はクラッシュジーンズのポケットに手を忍ばせ


「おっ、ちょっと待って」


携帯を開き、時間を確認し出した。


嫌な予感がよぎり、慶太の動きをただ見つめていると


「あ~もう朝だ。そろそろ帰んなきゃな」


「えっ?」


「時間も時間じゃん」


てっきり慶太もその気で部屋に来たと思っていたから手を出す気配すらなく、帰る素振りを見せられあたしは呆気に取られた。


ハッキリ言って冗談じゃない。


腹くくってここまで連れてきたんだ。引き下がるか!


そう思ったあたしは力を込めて慶太の腕を掴み


「もう帰っちゃうの?ねえ、帰んないで」