悠希の胸元に埋っていた頬を露骨に離し、胸を押して手で突き返した。


「家に着いたらメールちょうだい」


「おう」


「約束ね」


「着いたらちゃんとメール入れる」


「うん。バイバイ」


あたしは機嫌悪そうにそそくさ車を降り、手を振って悠希を見送った。


夏の余韻を残していた悠希の車がだんだん、だんだん小さく遠くへ消えていった…


虚しさを道連れに疲れきっていたあたしは自分の部屋に行き、体を投げ出し、床へ寝転んだ。


「いたぁ~」


床に当たった肩らへんがヒリヒリして痛い。


悠希もきっと同じ痛みを感じている頃で、痛がる悠希を想像して微笑んだ。


――来年はちゃんとシャンプー忘れないようにしなきゃ


たった今帰ってきたばかりなのに、気持ちは来年の夏に向かっている自分。


悠希との最高だった思い出の海。


ラブホテルでの件や、心のトラブルはあったが、最高の言葉を貰ったからそんなものチャラにしよう。


【海の青さは空の青さ。空の青さは海の青さ。互いが互いを染めるんだよ】


刻むよ。


あなたの言葉をこの汚れきった体と心に。


………しかし。


この夏を最後に、もう二度と二人で行く事のない海になる。


その時のあたしは幸せを噛みしめるばかりで、そんな事思いもしなかった。


悠希と「未来」があるって勝手に決めつけていたから。


だらけてたんだ。


幸せって奴に浸かって「夢」なんてみてたんだから。


言ってるでしょ。


あんたは


「夢」なんて見ちゃいけない人間なんだって。


黒く色付いてしまった人間は


白くなんて


ならないんだよ。


歩、忘れんな。