染み渡る温かさが肌を伝い、お湯と湯気が身を包む。


海の名残だった夏の香りは二度のシャワーで瞬く間に流れ落ちた。


ヒリヒリする赤らんだ肩にだけ夏が刻まれている。


しらけきった部屋に戻ったあたしは当たり前な顔をし、無言でそそくさと服を着て、椅子に腰掛け足を組んだ。


悠希も何も言わずゆっくり着替え出し、支度を整えだした。


このわけのわからない威圧感に押し潰されそうで、顔なんて互いに見れない。


見ようがない。


「じゃ、行くか」


「うん」


ラブホテルを後にした二人はどことなく遮られた亀裂の空気で会話も交わせない。


あたしは家に着くまで窓ガラスに頭を寄りかけ、寝たフリをした。


ズルいけど


耐えられなかったから…


約一時間、軽快に車は山道を抜け、自宅に向かう。


自宅付近に差し掛かった時、悠希があたしの肩を揺すり声をかけてきた。


「歩。起きろ」


「う~ん」


「着いたぞ」


「あぁっ。う~ん。家?」


寝起きのフリも演じなきゃ気まずさは増してしまいそうで…


うまく乗りきらなきゃ。


「なぁ。歩」


「う~ん?」


呼ばれた勢いで横を向いたら目の前に悠希の顔があって、軽く唇が触れ、パッと目を見開いてしまった。


「んっ!」


唇は少ししょっぱくて、悔しいが海を思い出させる。


「俺。やっぱ好きだぁ」


唇が離れた瞬間。


悠希はいきなり言い放ち、あたしの体は悠希にもっていかれ、力強く抱きしめられた。