帰りの車内は二人ともシャンプーの爽やかな香りを漂わせていた。


抜けきった脱力感でシートに身を委ね、隣で運転する悠希と会話もせずあたしは何枚か撮ったポラロイド写真をじっくり眺める。


眩しげな感じで砂浜に座る悠希や、水着姿でポーズをとるあたし。


背後には砂浜と青空。


テトラポットが広大な海を引き立たせる。


夏を味方につけた光まみれのポラロイド写真。


写真は真実しか写さない。


「ねぇ見て。悠希使用前、使用後みたいだよ」


「ん、どれ?」


悠希に海に入る前と帰り際の二枚の写真を見せた。


「おっ!うけるなこれは」


「うけるっつか、やべぇだろこれは」


半目になった悠希をとらえた写真を見て、二人で大笑いした。


「あれ?」


よく写真を観察していたら気付いた。


意識して二人で並んで撮った写真はいくら探しても一枚もない。


夏の思い出は写真と大嫌いな夏をたった一日で大好きな夏に出来た事。


悠希との初めての夏。


太陽の下で真っ黒になって弾けた夏。


「なぁ。歩」


「どした?」


「ラブホいかねぇ?」


「おまっ、なんだよ急に!」


「すげぇ、お前抱きたいんだよ!」


いいムードをぶち壊す悠希の発言にたじろいだあたしは、手にしていた写真を一枚クシャッと握っていた。


「あ~ぁっ。ラブホとか言うから写真やらかしちゃったじゃんかぁ」


「しゃあねぇだろ。抱きたいもんは抱きたいんだし」


「あたし海行って疲れたんだけど」


「俺も疲れてる。けど、行きたい」


「…う~ん。やだ」


「行~き~た~い」


ワガママなど言わない悠希が妙に食い付いてくる。


何かがおかしい。


どうしたんだろう。