「そんなムキになんなくてもいいじゃん」


「……」


「歩?」


「……あ、うん。ごめん」


せっかく会えたのにくだらない喧嘩をふっかけ後悔し、あたしは自然と素直に謝っていた。


純愛なんて。


恋なんてよくわからないからいつものペースでいれない自分に戸惑う。


人を見て美しいとか綺麗なんて思う事を忘れていたから、人間臭い感情が芽生えてどうしていいかわからないんだ。


花を見ても握り潰して捨てるし、綺麗なんて思わなくなっていたんだから…


「謝んなくていいから。ほれ楽しくしなきゃ!何話そっか?」


すかさずフォローしてくれる慶太を見て


たった三回会っただけなのに…でもやっぱこの人好きだわ


心の中にある慶太への思いが戸惑いから確信へと変わる。


それを期にあたしは意を決し、賭けに出た。


「ねえ。うちのアパート来ない?」


「えっ、あっ!?歩の部屋!?」


車内は一気に緊迫し、慶太の動揺がヒシヒシと伝わってきて痛いくらい居心地が悪い。


そんな重たい空気を打ち消してしまえと言わんばかりに、弁解しようとあたしは身振り手振りして


「いや、ただゆっくりしたくてさ。半端なく汚ない部屋なんだけど…あの~なんてえ~の。嫌ならいいんだ別に…うん。嫌なら…」


逆に不自然なリアクションをとってしまい、“失敗”の文字が頭をよぎる。


言ってしまった以上は後に引ける訳はなく、頭を抱えたい心境だ。


慶太は親指を口元に当て暫く黙っていたが、不安そうに見つめるあたしに視線をよこし、目を合わせた。


「マジ行っていいわけ?」


「えっ。あっ、うん。来て欲しい」


「んじゃ行くか!」


慶太の微笑みの裏には慶太なりの意志があるのだろう。


車をUターンさせ、今来た道を再びたどり車を走らせた。


さすがに慶太だって馬鹿ではないはずだ。


女が男を部屋に誘う意味ぐらい大人の男なのだからわかっている。


もちろんあたしもその気だったし、必ず手に入れる為には女の武器を振りかざすのが一番だと踏んでいた。


やはり“歩”は“歩”だ。