痛みが間違いなく太ももにある。


爪の跡がつくまでキツくやったせい?


「まぁ、あんまりおかんに心配かけんな。歩も体大事にしろよ」


「…」


「聞いてるか?」


「…あっ、うん。心配かけない」


「そうか。じゃあな」


「……じゃあ」


電話は切り終わったのに耳から携帯を離せずにあたしはいる。


一点を見つめ、動けずにいる。


父が母とあたしの心配をした。


“罵倒されて、また怒られる”


覚悟してかけた電話。


とても短い会話だったが、会ったわけでもないのになぜか嬉しさが全身に染み渡ったんだ。


「あはっ、あはは…あははははっ」


あたしは暗闇の中、携帯を両手で握り、壊れたように笑いだしていた。


「あたしの23年なんだったの。返してくんない。……返せよ」


そのまま父との余韻に浸り、朦朧としていたあたしは悠希にすぐ電話する気にはなれなかった。


ずっと苦しみを抱えてた23年間。


家族が家族を教えてくれた。


くだらない家族が…


周りから比べたらちょっと出来の悪い家族かもしれない。


「うちの娘に関わりもたないでもらえますか!?お宅の娘さん悪さばっかしてうちの子に悪影響なんで。警察沙汰に巻き込まれるのは迷惑ですし」


友達の親に怒鳴り込まれた事だってある。


「父親いないからあの子とつきあっちゃダメ。母親だってギャンブル系の夜仕事でしょ。歩ちゃん自身身なりだって金髪でヤンキーだし、平気で暴れる危ない子じゃない。親が親だもの」


思春期にそう言われた事もあった。


あたしを囲む環境や家族を恨みまくった23年間。


――なんで?あたしが何かした?あたしを嫌いなの?ちくしょう!片親で悪いか!?お母さんは頑張ってるのに。何も知らないくせ!何も知らないくせ!


母一人に苦労をさせた父。


家族を捨てた父を許せなかった。


あたしを捨てた父を許せなかった。


父に対する憎みは完璧に消えない。


でも父と向き合えた今日、あたしは本当の意味で家族の意味を知ったんだ。


どんなに足掻こうが、否定しようが血って奴に逆らえないんだって…