携帯の画面を確認したと同時に戸惑うあたしを見て、何も知らない悠希は不思議そうにしている。


「なんでとらないの?誰から?」


「いや。誰って」


「誰?」


「…」


「どした?嫌いな奴とか?」


「嫌いってか…父親…」


「親なら取ればいいじゃん」


「…」


普通の親子なら躊躇なく迷わずとるであろう着信。


普通の親子なら…


家庭の事情を知らない悠希は黙るあたしを無視し、平然とした態度で前を向く。


二人が会話している間。


父からの呼び出し音は切れ、光を放っていた画面は真っ暗になっていた。


「かけなおしたら?急用かもしれないし」


「いや。あの、その」


「何?なんかしたん?」


「いや。だから、あのね…」


言われれば言われるなり口ごもってしまう。


かけたくない。


どうしてもあんな奴にかけたくない。


悠希に家庭の事情は何も話してないが、それ以前にまだ隠してる事があるから。


そう。


その隠し事は姉の所に行くちょっと前の出来事にさかのぼる…