悠希を見送った後、家に戻り、力が抜けきってしまったあたしが茶の間に腰を下ろすと、母は待ってましたと言わんばかりに話をかけてきた。


「あの子凄く可愛い顔してるね~雰囲気ですぐわかったよ。いいとこの育ちだって」


「えっ?確かに可愛いわなぁ。ん?あ、うん」


突拍子もなく母に話かけられ、動揺してしまい言葉がつまる。


今まで母に他の彼氏を会わせても誰一人褒めやしなかったし、必ず出る言葉は


「はぁ。また遊び人系?」や「誰が誰だかさっぱりわかんない。これから他の彼氏ができても別に会わなくていいし、連れてこなくていいわ」の罵り系の、冷たい言い回し。


それなのに自分から悠希について触れてきた母。


違和感が形になり、ぎこちない返事しかできないあたし。


「歩にはもったいない子だね。もしあんな素敵な子と結婚なんてなってもお前と不釣り合いで相手が悩むんじゃない?あんたわがままだし。でも、可愛い顔の赤ちゃん生まれるのは間違いないねぇ」


真剣な眼差しを向ける母は、あり得ないスピードで話し込み、悠希をとことん褒める。


褒めすぎで悠希じゃないが自分まで体が痒くなりそうだ。


人を惹きつける。


これが悠希の魅力なんだとあたしは改めて痛感した。


「子供とか気早いっつの。つうか結婚もしてねぇし!」


照れを隠す為、憎まれ口を叩き、あたしは母に捨て台詞を吐き出したと共に階段を駆け上がり、自分の部屋へと向かった。


悠希だから。


彼だから母は認めたんだ。


他の誰かじゃダメ。


悠希だからこんなにうまくいった彼氏紹介。


23才になって初めて彼氏が認められ得た充実感にあたしはお腹いっぱい、胸いっぱいになっていた。


たくさんの幸せをくれる悠希。


たくさんの初めてをくれる悠希。


彼がいる日々に感謝なんて安い言葉は当てはまらず、表現が出来ない。


ただ言えるのは、これからもずっと一緒に居たいって事だ。


そして、あたしは思い描いていた。


いつか、悠希のお嫁さんにあたしはなりたいと…