「お邪魔しました」


自分がつらい状態でもしっかり挨拶する悠希の声を聞きつけた母は、玄関に顔を出し「また来てね。運転気をつけて帰るんだよ」と言った。


その言葉を聞いた悠希は嬉しそうに「はい。また来ます」と返答し、深々と頭を下げ、玄関から外へと歩き出した。


悠希と母の対面デビューはあたしにとっては120点以上の大成功。


予想を遥かに越えた、好印象な母の対応と悠希とのやり取り。


この情景をあたしはいつまでも見ていたい気もしているが、状況的にそうもいかない。


口には決してしないが悠希に言いたかった「ありがとう」


それを胸に秘めて、あたしは急いで車まで悠希を送り、人目がないか周りを確認して、道端で軽く唇にキスをした。


「痒み、大丈夫?」


「時間がたてば治るから大丈夫だ」


赤みがかった悠希の頬に手を添えると、熱もおびていて痛々しい。


変わってやれるなら即座に変わりたい。


痛いのも苦しいのも悠希の元に近寄らないで欲しい。


神様って奴がいるならあんたなんて大っ嫌い。


「なんか予定狂った、っうか変に気使わせちゃったね…気つけて帰ってな」


「大丈夫だから、元気だせ~」


あたしが申し訳なさそうしていると悠希は明るく笑い、励ましてくれる。


「元気です。はい、ワタス元気。元気じゃないのは悠希君。あなただよ」


「確かに絶頂に元気じゃねぇ~な」


「わぁったから、とにかく早く帰宅帰宅!」


「だな。んじゃ、またな」


そう言い、悠希は車に乗り、手を窓から外に出して大袈裟に手を振り帰って行った。