悠希を家に上げる前は、笑いが出るなんて想像もしていなかった。


今まで彼氏を連れて来ても、母とあたしの間に笑いが起こるなんてありえなかったから。


悠希は不思議と流れをプラスに変えてくれる「何か」を持っている。


場の人間を優しい気持ちにさせるオーラを放つ人だ。


「歩と母ちゃん似てんなぁ~」


「だって親子だもん。他の誰に似んだよ」


「そりゃそうだ。他人に似たらそら~ダークな話になっちまう」


「パパは隣の知らないおじさ…ってアホだな、お前」


「オッツ。誰もそこまでは言ってねぇよ~」


「と見せかけ、じつは隣の隣の知らないオッサン」


「歩のそういうギャグ嫌いじゃねぇ~」


「あたしはお前が嫌いだ」


「嘘つけ!」


「調子のんな!ハゲ!」


「っつうかさ、ぶっちゃけますが気が緩んだらやっぱ顔痒く感じてきたんすけど」


いくら気を張ってたからとはいえさすがにアレルギーには勝てず、悠希は頬を抑え、手を上下し、顔をこすりつけている。


見てるこっちまで痒く感じてくる。


「えっ、マジ!?今日はもう帰れ!車に行こう!」


「うん。痒くてだめだ。ハゲとく。ごめんな」


「こんな時まで冗談はいいから!早く行こう!」


ふざけたじゃれ合いを中断し、あたしはすぐ悠希の手を引き、階段を降りて、玄関へ悠希を連れて行った。