悠希とあたしは母が出て行くまで黙り、扉が閉まるのを見つめる。


それから数秒の間の後。


激しく痛い視線が突き刺さった。


「あ~ゆ~むぅう~」


「あらっ。ごめんなさいねっ」


あたしは悠希の痛い視線などものともせず鼻の下を伸ばし、笑いをこらえる。


「ったくお前はひでぇな…」


「薄情だからね」


悠希は目を細めあたしを睨んだが、すぐ表情をゆるめた。


「つうかさ。俺、歩の母ちゃんいる間、痒いの忘れてた」


「えっ。にゃんたらアレルギーでしょ!?」


母が来て緊張し過ぎ、凄まじい痒みを忘れたらしい。


なんだかおもしろい。


こらえようとすればするほどおもしろくなり、悠希を見ていられない。


もうダメだ。


ギブアップ。


「あはははははっ!うひょ~うひょ~」


おかしくて再びあたしは笑い、腹を抱え寝転がってさっきよりも足をバタつかせた。


「笑うなよ!」


「いいじゃん。だっておかんお茶持ってるって何?悠希の顔もぷぷっ」


二人のやり取りに笑わずにいるなんてもったいない。


この際なんで遠慮なく笑ってやる。


「シャシャシャシャ!うける~うける~シャシャシャシャ!」


「笑い過ぎ!つかシャシャシャシャってなんだよ!」


「ん?キショクて可愛くね?シャシャシャシャ!ぷぅ~ぷぷっ」


「手つけらんねぇ、バカ女だな」


「とか言うわりに歩ちゃん好き好きなくせ~シャシャシャシャ」


「うぜ~シャシャシャシャ!」


ただのバカが二匹揃った。


いや。


ただのバカっプルが誕生してしまった。


悠希のこういうノリのよさがじつはたまらなかったりする。


彼氏と一緒にバカになれるって素敵だなって昔からあこがれがあったから、素敵を叶えてくれる悠希はもっと素敵だ。