「うん仕事。もうちょいしたら帰らなきゃいけねぇな。誘っておいてわりぃ」


「あ~うん…でも仕事じゃ仕方ないもん」


てっきり朝までずっといれるものだとふんでいたあたしは、想定外の展開に唇を尖らせ肩を落とした。


せっかく会えたのに。


せっかく仲良くなれたのに。


けれど、希望は捨てるものではない。


慶太は顔を近付け、あたしの頭を2・3回叩き、思いがけない提案を口走った。


「明日も会わない?ん?日付変わったから今日か。日中仕事行けば次の日休みだし、時間気にせず長くいれるからさ」


「えっマジ!?会う!絶対会う!やったあぁぁ!!」


あたしは子供みたいにはしゃぎ、腕を胸元へ寄せてガッツポーズを決める。


また会えるのがこんなにも嬉しいものだなんて思いもしなかった。


「よし、決定!もうちょい時間あるから話ししてから帰るか」


「おうよ!ど~れ。いっぱい質問しちゃおっと」


「調子いい奴だなぁ」


「やかましいわ!」


そこから約30分。


互いの内情を話したり、冗談を言い合ったりして慶太の意外な一面を見ては一喜一憂した。


好きな歌手や仕事、過去の恋愛。


短い時間でも慶太を少し知れただけでいい。


大切な二人だけの時間を過ごせれば…


そしていい雰囲気のまま別れの時を向かえた。


「また同じ時間に店の下で待ってるから」


「うん!ちゃっちゃと仕事終わして数時間後お迎えよろしくね」


「はぁ~嫌だけど仕事してくっか。じゃまた後でな。バイバイ」


慶太にアパートの近くまで送って貰い、名残惜しかったがあたしは明るく振る舞い、車を降りた。


慶太は車からしっかり降りたのを確認し、クラクションを鳴らして車を走しらせる。


あたしは車が見えなくなるまで手を降り続け、見えもしないのに笑顔を崩さずにいた。


よ~し勝負はこれから。ちゃんと寝て体力補給しなきゃ


スキップしてエレベーターに乗り、自分の部屋へ着くと、即座に寝る支度を整えて缶ビール片手に布団へ滑り込んだ。


月明かりだけを頼りに缶ビールのプルタブを開け“プシュ”という音と共に一気飲みし、寝酒を決める。


その日の夢には慶太が出てきて二人は手を繋いでいた。


淡い彩りの空間の中、笑顔で語り合う二人の夢。


あたしはきっといい顔をして眠っていただろう。


眠り姫並みに深い深い眠りにつき…