好きだから別れて

音が漏れないように部屋の扉を閉め、あたしは携帯をバッグから慎重に取り出した。


帰ってきたら悠希に電話をしなきゃいけない。


約束は約束。


逃げてなんかいれない。


けど、喧嘩をふっかけといてすんなり電話をかけるなんてそこまで器用じゃない。


逃げたい。


いや、逃げちゃダメだ。


白い携帯とにらめっこをして数分。


決心を固め、携帯を手に悠希にかける準備をした。


携帯のボタンを指でぎこちなく押し、コール音を聞くとワンコールですぐに悠希は出た。


「あっ、歩だけど今実家についたよ」


「本当にごめん。ごめんなさい…」


会話を交わす前に突然謝られ、電話口の悠希はしゃがれ声を出す。


本当は全然怒ってなどいない。


それなのに一度芝居をしてしまったからにはひくにひけない性格のあたし。


悠希が事故を起こさないか心配で埼玉へ迎えに来て欲しくなかっただけなのに…


つい「別れて」と言ってしまった。


心は申し訳ないと思ってる。


そのくせ口からでる言葉は違ってた。


「どうでもいい」


どうでもいいわけがない。


悠希が好きなのに、素直に仲直りすればいいのに謝れない。


「とにかく会って!」


「面倒くせっ」


悠希は必死なのにどうしても素直になれない。


あたしってつくづく馬鹿な女だと思う。


謝るのは全然格好悪くないのに…


「今日会社休みなんだ。今から歩の実家に向かいたいんだけど、どこらへん?」


「はぁ…うちは…」


実家の場所を事細かく教え、電話を切り、結局悠希の到着を待った。


悠希の家からあたしの家は車で約一時間かかる距離にある。


同じ県内でも決して近くはない。


悠希が着くまでたっぷり時間があるから化粧を念入りにし、身なりを整え、久しぶりの再会に胸を踊らせた。


「ふっふぅ~ん♪」


家にあげる予定もないのに掃除機をかけたり、わけのわからない行動をとり、時間を潰して緊張をほぐす。


部屋を綺麗にし、バッグに手をかけ荷物をタンスにしまっていると、悠希からのメール音が鳴った。


『着いたよ』


四角い画面に写し出された悠希からのメールを確認し、階段を駆け降り、あたしは外に飛び出した。