「そこまで別れるって言うなら慰謝料10万よこせよ!」


「はぁあ!?慰謝料!?なんの慰謝料だよ!もしかして性病検査のか!」


「そうだよ。」


悠希の口からそんな馬鹿げたセリフが出てくるとは思ってもみなかった。



「10万ね!わかった!」


あたしは呆れ返り言い放ったものの、1ヶ月ほったらかしにした悠希は心変わりしたのか不安になった。


1ヶ月でも一秒でも人の気持ちなんてちょっとした弾みや出逢いで変わってしまうから。


「歩!?ちょっ、ごめん!!嘘っ!冗談!!」


「冗談って何?」


「お前が別れるって言うからこう言えば別れないって言うかと思って…」


さっきの勢いから急に弱々しく変化した悠希の声。


冗談にしては手の込んだ冗談に段々腹が立ち、あたしの怒りに火がつき始めた。


「言っていい冗談と悪い冗談あるのあんたわかんない!?」


「だからごめんて…」


「あぁ~もう!迎えになんか来なくていい!今から新幹線乗って帰る!これなら来る必要ないでしょ!」


黙る悠希にわざと喧嘩をふっかけた。


こんなにムキになる必要など本来ない。


慰謝料と言われた瞬間頭にきたのは事実。


けど声を聞いてしまったから…


今すぐ会いたいから理由をつけたんだ。


喧嘩をした形でも悠希に会いたい。


会いたかったんだよ。


「ちょっ、歩!」


「うっさい!今すぐ帰る!着いたら電話するから!じゃあね!!」


「おま…」


悠希の声を聞くか聞かないであたしは通話を終了させた。


急いで手当たり次第荷物をぶち込み、バッグの荷造りが済むと台所にいた姉に


「彼氏と喧嘩した!めっさ頭にきたから一ヶ月前だけどあっち戻るわ」


急に帰ると言い出し、自分勝手な行動をしだした。


トントン…ト…


姉は野菜を切っていた包丁を止め、あたしに視線を移し、冷静に話し出す。


「またしんどくなったらいつでもこっち来な」


そして驚きもせず、腕を組み、小刻みに笑いだした。


姉はわかってたんだ。


あたしが地元へ帰りたくなったのが。


「姉ちゃん。あのさ…ありがとう」


「ったく。まずは彼氏と仲直りしなよ」


「わかんね!別れるかもしんないし」


「ぷっ。ははははっ!はいはい。別れるもんなら別れてこい。ははははっ」


頭にきてる顔を作っても姉はひたすら笑い続ける。