その日を境にあたしの体の変化は急激だった。


薬は手放したはずなのに調子がいい。


時間がくればちゃんとお腹はすき、逃げ場にしていた大量のタバコも吸わないでいれる。


常に起きていたふらつきも日に日に減っていき、顔に肉も着き始め、微かに膨らみだした。


姉の所に来て規則正しい生活を送った結果が実を結び、周りの理解もあたしを一回りも二回り大きくしてくれたおかげで回復していったんだ。


たった数週間で、こんなにも心に花が咲く。


夢かと思って頬をつねってもしっかり痛みが残る。


みんなの愛情を見ようともせず死にかけていたあたしの目は、いつの間にか曇りが消えていき、嘘みたいに前向きな心が生まれていた。


あたしは地に足をついて生きている。


しっかり息をして生きているんだ。


そして姉の家にきて1ヶ月になりそうな頃。


連絡を絶っていた悠希から電話が鳴った。


体調も心もだいぶ人間らしくなった自分。


そんなあたしの声を胸を張り聞かせたかった。


愛しい悠希と繋がる瞬間。


恥ずかしくなりそうで、調子よく電話に出た。


「はいよ!久しぶり」


「お~出るの早え~。かなり久しぶりだな」


なんら変わらない悠希の声はやはり安心する心地良さがある。


「悠希、元気?」


「もち元気!もうすぐ約束の一ヶ月だけど体調はどうだ?」


「それがさぁ…かなりいい感じなんですわ!」


「マジ!?歩やったじゃん。ってかさぁ〜俺。もうすぐ会うの楽しみだあぁ~♪」


「なんて声出してんだか…」


今にも抱きついてきそうな悠希の姿が目に浮かんでしまう。


あたしは携帯を握り、小さな鏡の前で髪を整え、鏡に映る自分に微笑んだ。


「なぁ、歩ぅ~俺、車でそっちに迎え行ってだめ?ついでに東京行きたいし」


「えっ?」


「だから迎えに行ってだめ~?」


突拍子もない悠希の発言に、髪をいじる手が自然と止まった。


顔からは瞬時に血の気が引き、あたしは口走っていた。


「だめ!!距離が距離だもん。こっち着くまで気が気じゃない。事故で死なれるとか本当に嫌だからだめ!」


我を忘れ、悠希を怒鳴り散らす。


久しぶりの電話なのにそんなのは完璧に忘れていた。


スイッチが入らずにはいられない理由があるんだ。


あの日、あの時が走馬灯のように頭を駆け巡った…