「姉ちゃんお前の気持ちわかるんだ。つらさもわかる。だから休め。何もしなくていい。ただ休め。もう走らなくていいよ!」


姉は言いたくない過去を言ったはずなのに、穏やかなあたたかい笑顔で微笑んだ。


頬を赤らめ口元を緩ませて…


心から笑える日を迎えたい。


自分は愛されていない、家族すらいらないと思ってた。


そう思っていたが姉に話を聞いて、心のモヤが薄れていったんだ。


愛されてる。


みんなに愛されてる。


大切にされてたんだ。


「姉ちゃ…」


「あ~あ。姉ちゃん酔っぱらって言わなくていい話までしちゃった!ははっ。先に寝るね」


姉は千鳥足でグラスを台所へ片付けに行き、すぐ部屋へ戻ってきた。


「歩~早く寝なよ。明日も早いぞ~」


「あっ、姉ちゃん。最後に一つだけ言ってない話があるの」


「ん~?何した?」


姉が言いたくなかった秘密を口にしたから。


だからあたしもほんの少しだけでいいから聞いて欲しい話があったんだ。


「あの…おとんが店に一回来たん。んでその後電話きて…」


「えっ、店!?で、なんて!?」


「痩せまくったし体調優れないから仕事辞めるって言ったら「甘ったれんな。金になんだから今いる客全部引っ張って新しく店やれ」って…」


「…ったくアイツらしいな。金キチガイだもん」


「取り分はアイツのふところ行き。金と引き替えにお前は死ねって意味だよね…」


「まったく腐れオヤジだな…店なんてする必要ない。歩は夜から離れたの。もう走るなってさっき言ったじゃん。なっ?忘れな。今は電話なんか着拒していいから。お前の体が一番。わかった?」


「着拒…」


「いい!?わかった!?」


「うん…わかった」


「はぁ~あっ。姉ちゃん今日酔っぱらいだからその話はもう一回ちゃんとした形で聞くね。変に濁したくないし」


「…うん。ありがとう。また話す」


「へへっ。まずはお休みな」


そこからあたしの話を聞かず、姉は寝床へ向かい、ふすまを閉めた。


本当は姉は姉なりにきつかったんだと思う。


弱味を見せたくない人が自分の弱味を見せるのは凄く苦しい。


それはあたしが一番わかってる。


人はそんなに強くない。


弱さを見せたら人の話を聞く余裕なんてどこにもないんだよ。


プライド女は泣き顔なんて見られたくないんだから。