そして、その日の夜。


みんなが寝静まってから姉とゆっくり二人で酒を飲み、深い話をする事になった。


「いきなり学君カメラくれたじゃん。歩、かなりびっくりしたんだよね」


あたしは学君に言えなかった思いを姉に伝えようと、缶ビール片手にカメラの話題をふった。


「あ~あれね。あれは旦那の小遣いはたいて買ったみたいよ」


姉は焼酎を飲み、気分良さげに目尻を下げ話す。


「えぇっ!すげぇ高いじゃん」


「そら高いっしょ」


「小遣いって…悪いなぁ…」


「つうかさ~お前は本当にな~んも気付かないのなぁ。鈍感」


「何が?」


確かにあたしは鈍感だが、急に話を変えられて何がなんだかわかるわけがない。


眉間に力が入り、シワが寄る。


「歩がここに来た日。お前、旦那に挨拶も会話もなんもしなかったでしょ」


「…」


思い当たるだけに痛い所を突かれ、黙り込むしかない。


都合が悪い気まずさを打ち消そうと、タバコを何度も口に加えふかす。


「歩をここに呼べって言ったのじつは旦那だよ」


「嘘だぁ~」


「いや、マジで。あたしから提案なんていっさいしてない」


姉の顔を凝視できない。


もう胸がいっぱい過ぎて苦しい。


これ以上何か起きたら破裂しちゃう。


姉はそれでも言い足りないのか、話しを続けた。


「嘘じゃないよ。みんな歩を心配してるの知らねぇだろ」


「心配なんて…」


「電話もきてるんだよ」


「電話?誰から?」


「お母さんと兄貴」


電話が姉の元に届いてるなんて、あたしは全然気付かなかった。


そんな夢物語があるはずない。


誰もあたしに見向きもしなかったんだから。


「えっ!知らないよ!」


「そらわかるわけないよ。口止めされてたもんで歩には言えなかったからね。お母さん、歩ちゃんと食べてるって。兄貴は俺行けねぇけどよろしく頼むだってさ」


あたしの知らない所で二人は影ながら心配し
、元気になるの待ち望んでる。


母も兄もまったく心配している素振りなんて見せなかったのに。