「ねえ、歩ちゃん。あそこにカンガルーいるよ」


「おっ、ラスボス出たな。こいや、うぉら」


「ボクシングは?」


「んなもんはさぁ…お前がやんだよ」


「え~っ!」


「歩ちゃんがやるわけねんだぜ!痛いじゃん。歩ちゃん女の子だしぃ~」


「僕、怖いよ~」


「男なら素手だ!いけ!」


「キャーやめてぇー」


「背中グイグイじゃ、おら~」


「カンガルー強いよ~!テレビでボクシングしてたも~ん!」


「嘘だよ冗談」


「へっ?」


「それよりあのバカっぽい穴に顔入れろよ。写真撮ってやるからさ。こいこ~い」


小学生になる姉の長男と戯れた後、顔の部分に穴のあいたカンガルーの絵を指差し、絵に甥っ子の顔を強制的にはめこませた。


下には大きな袋がついていたので、残りの三人の中から愛菜を選抜し、袋の中へ入らせた。


「おめぇら顔似てんなぁ~つか、かなりかなりウケるんですけど~」


「キャキャ。ウケるんですけど~だって」


「真似すんな。丸顔共!」


あたしはカメラを構え、子供相手に調子よくウケをとり、シャッターを素早くきった。


出来上がりが楽しみな写真達。


さりげなくこのネガには姉と学君のツーショットも納めてある。


これは二人に内緒のプレゼントのつもりだ。


出来上がって二人がどんな顔をするか楽しみだったりする。


この際だからカメラだけじゃなく記憶にも焼き付けよう。


埼玉に来た思い出の一ページを。


あたしはふざけまくった後、全身全霊で幼少にかえり、動物園を満喫して無我夢中でカメラで思い出をおさめ続けた。