あたしは幼少から家で一人になると寂しさを埋める為に自分で自分に話しかけている子だった。


気付けばまるで本当に存在してるかのように、あたしの中に眠るもう一人のあたしを作り上げていた。


ただの現実逃避。


ただの弱い人間。


作り上げたあたしは真っ直ぐな気持ちに反し、いつも自分以外は敵とみなし牙をむけ、都合が悪くなるとぱっと出てきては人を傷つけ、立ち上がれなくなるまで引きずり回す。


高校時代、まさに父に捨てられた頃からそれは特に酷くなった。


――潰せ!潰せ!やられちまうから。やるんだよ!


怒りが人間を人間扱いしない冷めた目に変わる。


感情の起伏が激しく、笑ったかと思えば目が座ったり自分でも手がつけられなくなっていた。


――いくらでも媚びてやる。これは食らう為のあたしの作戦なんだ。


剥き出しの本能。


抑えきれぬ衝動。


「歩。ごめんなさい!ごめんなさい」


泣き崩れ、命乞いする相手を見ては笑うんだ。


――お前何?あたしをなめんな!!


解決しても、一人になると込み上げてくる怒りはおさまらなく物にあたる。


自分が血だらけになろうが破壊するまで壁や床へ物を投げつける。


窓ガラスを素手で殴って、拳から吹き出した血を見て叫んだ。


「なんでわかんねんだ!なんなんだ」


狂いながら大声を張り上げ、ぶつけどころのない気持ち。


それでもあたしの中のあたしは言うんだ。


“弱いからこんな風なんだ。消えちまえ。お前なんか愛されてなかったんだ。消えちまえ!”


押しつぶされグダグダの心。


「もう一人は嫌だよ…一人になりたくない…」


呪文みたいに自分に投げかける。


自分で自分を惨めに追い込んでいくのに止められなかったんだ。



自分なんか愛せなかったんだ…


そこまで落ちぶれていた自分がたった数週間で本当に変わりきれるのだろうか。


「歩ちゃん!こっちにも小さなお花咲いてるよ!」


「どれ?見せて!」


「こっちは白なの!可愛い」


深い深い心の海は、愛菜の清い笑顔と昔の自分を重ね合わせていた。