酒がある程度抜け体調がよくなると、春斗の部屋から自分の部屋へ戻り、パンを軽くかじり職場へ向かう準備をした。


シャワーを浴びて化粧を施し、身なりを整えいつも通りの時間に出勤。


毎日浴びる量を飲む大好きな酒は、慶太さんを意識してセーブし、ほろ酔い程度に抑える。


回転数の早い店内で時間が許す限り事務的に客をこなし、迫り来る時は刻々と近付く。



11時。


12時。


そして慶太さんと約束を交わした1時…



「ママ。お疲れ様でした!すいません。急ぎなんで」


仕事が終わると勢いよく店の扉を開け、あたしは駆け足で階段を降り周りを見渡した。


店からちょっと離れた場所に止まる白いセダン。


バリっといじられててフォルムが綺麗だ。


きっとあれだ。早く慶太さんの顔が見たい。


ドキドキしたが早る気持ちが先で、小走りに車へ近付き、助手席の扉を開けてみる。


「おまたせしました!」


ワントーン声を上げ、ネオンの光でうっすら浮かび上がる慶太さんを見て挨拶する。


「お疲れ!!客の目もあるから早く車に乗って」


車内に漂うタバコと大人の匂いにクラッときつつ、慶太さんに促されるまま助手席に座り、車は走り出した。


「なんか緊張する…」


「は?年中男と話ししてるじゃん。今更緊張なんてしないでしょ?」


静かな雰囲気が苦手で、とっさに出た言葉に慶太さんはあっさり返答した。


飲み屋の女はやはり男慣れして見られるものだ。


実際今まで男なんてなんとも思ってなかった。


物だ物。


道具。


慶太さん以外は…


「ははっ。ですよね~変ですよね~。なんでこんなに緊張してるんだろ…慶太さん格好いいからじゃないですか?」


「俺!?全然格好よくないから!」


前を見てタバコを吹かしハンドルを握る慶太さん。


とても眩しく見えて仕方ない。


同じ空間で同じ時を過ごし、隣にいる慶太さんの横顔を自分一人だけのものにしている幸せを噛み締める馬鹿なあたし。


「いや。めっちゃタイプです…」


「またまた~うまいな。商売人」


こんな臭い台詞を飲み屋の女が吐けば信じて貰えるはずはない。


だが、あたしにはせっかく掴んだチャンスを逃すわけにはいかなかった。