周りの乗客は涼しい顔でコーヒーを飲んだり、面倒くさそうに新聞を開いている。


所詮は他人の集まりで、あたしを助けるどころか見もしない。


頼る相手など、どこを探してもいない。


――やばい。でもパニックは忘れなきゃ。あたしは大丈夫!大丈夫なんだから!


意味不明な鼻歌を歌ったり、大好きなミントブルーのガムをひたすら噛んだり。


懸命にパニックから気を反らす努力に励んだ。


冷や汗は体中にかいたが、持参した薬をバッグから出さず、結果約二時間の新幹線デビューを果たした。


新幹線を降りると電車に乗り換え、姉が待つ駅まで向かわなければならない。


――やべぇキツイよ。過呼吸なんかなんじゃねぇぞ。お前頑張れ、頑張れ


目が回る感覚をこらえ、出入り口のドア付近に寄りかかり、自分の気持ちを必死に違う方へ向ける。


知らない土地。


知らない人。


必死に目を瞑って携帯を握り、15分でなんとか目的の駅にたどり着いた。


一般的には普通で何の事ない当たり前の行動。


でも、あたしには心臓が口から出てきそうな冒険だ。


改札を過ぎ階段を駆け下りると、大きく手を降る人影が目に映る。


「歩!!」


「姉ちゃん!」


無我夢中で姉に駆け寄り、孤独と戦った時間に幕をおろし、ほっとした。


「ほら。荷物よこしな」


「ありがとう」


「お前細過ぎでバッグのがデカイじゃん」


「んなわけねぇし」


車に荷物を詰め助手席に座り、姉と久々に再開した喜びと恥ずかしさが隠せなかった。


「まず気楽に楽しめ」


「うん」


「寝てりゃいいさ」


姉は運転しながらさりげなく緊張をほぐしてくれる。


姉の家へ向かう道は自然がたくさんあり、自分の実家付近に似た雰囲気で、草花や古びた家が建ち並ぶ街並みに安心感がよぎった。


そういえば外の景色に見入り、何かを忘れている気がする…


「あっ、悠希にメールしなきゃ!」


悠希の存在を思い出し、即座に携帯をバッグから取り、今の状況を簡単にメールした。


『無事に着いたよ。緊張で冷や汗一杯かいたけどなんとか姉ちゃんと合流して家に向かってる』


メールを送り終えると、一仕事終えた達成感があった。


自分と向き合う為に戦いに来たあたしは、確認せずそのまま携帯をバッグにしまう。


自分勝手だがこの日から悠希に甘えてしまう自分と決別する為、悠希と故意に連絡をたつ事にした。