「帰ってきました・はいそうですか」なんて簡単にいく訳もなく、同じ空間にいても互いを避けあい、会話がない。


母はたまにこっちを見て何か言いたげにしていたが、あたしは何を話せばいいか迷ってしまい自分の部屋へすぐ逃げた。


実家なのにこの空間にはいずらい。


いてはいけない場所な気がしてならない。


あたしは姉の元へ逃げる準備をして、姉の所へ向かう日を決めた。


緩やかな日差しが差し込む穏やかな日。


母の元を離れ駅へ向かったあたしは姉の元へ行く前に、新幹線を待つホームで仕事中の悠希にメールを送った。


『今から行ってくる。あっちに着いたら連絡するね』


余計な言葉は今はいらない。


遊びに行くんじゃない。


全てを取り除きに行くのだから。


シルバーの新幹線がホーム入りし、指定席を探して無事に席に座り、生まれた土地を窓から眺めた。


――おかん。悠希。歩、頑張るね


心で唱え、加速し流れ行く景色から目を離した。


密封された車内はあたしにとって風呂場と一緒で、一人のプレッシャーで不安にさせていく空間だ。


気付けば手に大量の冷や汗をかき、携帯を握りしめている。


人間は極度の緊張に達するとすがりたい人を思い出すらしい。


悠希に繋がる携帯を震えた手で汗まみれになりながら力一杯握り締めていた。