ある程度の大きな荷物は母の元へ運び、散々迷惑をかけた娘はまた出戻りをした。


「部屋はあるから使いなさい」


「二度と帰ってくるな」と散々罵倒してきた母は深く追求もせず一言告げると、すぐあたしの前から姿を消し、茶の間に逃げて行く。


すごく懐かしい匂いが漂う家。


「ここ、あたしの部屋だ」


学生時代、母と住んでいた懐かしい実家。


ここは心に傷を負い、母の強さを学び、青春時代を過ごした場所だ。


とりあえず整理整頓を兼ね、押し入れに荷物を入れようと扉を開く。


と、学生服を着た懐かしい写真がたくさん出てきた。


「あっ、あたしアホなポーズして笑ってるや。茶金髪で眉細ギャルじゃん」


その場に座り、くったくのない笑顔で映る自分の姿を見て何故かとっさに手首を掴んだ。


「こんな人間になっちゃって…」


親指と人差し指で握っても隙間が出来る手首は今にも折れそうで、見るに耐えない姿。


もう過去は振り返らなくていい。


終わりにするんだ。


昔の自分と決別し、封印しようとあたしはすぐ写真を閉じた。


母は夜仕事をしているので昼夜逆転で、すれ違いの生活を数日送る事になった。


あたしを育てる為に自分一人で小さな体を振り乱し頑張ってきた母は、父に頼らず“歩”が大人になるまでしっかり義務を果たしてくれた人。


母は喜怒哀楽をあまり表現しない。


というよりしなくなった。


あたしが幼い時。


父とのいざこざが原因で心を失った母が生まれた。


高校時代、母子だけなのにどこか冷めた空気が流れていたのを感じて育ってきたあたしは迷惑かけまいと思う半面「生まなきゃよかったじゃん」なんて母に感謝するどころかダダをこねる子供と一緒だった。


こんなに近くにいるのに会話の成立しない母子。


大好きなのに…


話したいのに…


中学時代みたくうまく話せない関係になっていたんだ。