心の隙間に入り込んだ、人を好きになれた風。


とても新鮮で温かな風…


「あっ。返事返さなきゃ」


我に返り、治まりきらない胸の高鳴りなのか張り裂けそうな心臓はドクドク脈打つ。


左手で胸ぐらを掴み、右手でゆっくり時間をかけて大切に文章を作る。


打ち間違わぬよう、大切に、大切に…


『凄く嬉しい~もちろん会えますよ!あたし仕事一時までなんですけどいいですか?』


躊躇したらなかなか送れないと思い、勢いをつけ迷わずメールを送信した。


「はぁ…」


「歩もいろいろ大変なんだな」


ため息を聞いていた春斗は、冷めた弁当を頬張りあたしに話かけると、リモコンを手に取ってテレビをつける。


静かな部屋にテレビの音が広がり、画面には恋愛で苦しむ二人のやり取りが映し出される。


「大変にならなきゃいいけどね…」


作られた恋愛話に全く興味がないあたしは、テレビから目をそらし、携帯片手に仰向けに寝転がった。


「病み中はシカト」


春斗は空気を読んでそう言うと、それから何一つ話をかけてはこない。


春斗の優しさに甘えこっちも一切口を開かず、黙って慶太さんの返事待ちをした。


“♪~”


受信音にビクッとしつつ、鳴り終える前にボタンを押し、メールを開く。


『全然余裕!一時に歩ちゃんの店の下で待ってるから。車はいじってある白いセダンね。今日も仕事頑張ってな』


『白のセダンね♪仕事頑張りまぁす』


あまりにも春斗を待たせるのはさすがに申し訳なく感じてメールを作成し、急いで慶太さんへ送信して携帯を閉じた。


「春斗ぉ~」


「ん?」


春斗はこちらを見もせず、テレビドラマに食い付いている。


愛だの恋だの語ってる甘々なドラマに。


「いつも…ありがと…」


照れ臭いけど、感謝している気持ちをぎこちないなりに春斗へ精一杯伝えると


「バ~カ。俺はブスに優しくしねぇ男だ」


テレビから目を離さない春斗の鼻の下は、相変わらず伸びて照れていた。


「鼻くそ男」


「あぁん!?化粧はげてるブス女!」


「おめぇ今ブスにはなんたら言うたやんか!」


「やん。歩ちゃんブスに反応し・す・ぎ」


「てめぇ逃がさねぇ。ぜってぇしばく!」


仕事が始まるギリギリまで相変わらず二人のくだらない言い争いは続き、仕事前には春斗のお陰であたしの不安感は消え、だいぶ元気になっていた。