日曜日の夕方。


悠希が大好きなアニメを見て夢中になっている時をあえて選び、深く考えず話を聞き流してくれと願い、声をかけた。


「あのね、だ、大事な話があるの」


「うん~?何?やたら気まずそう。カミカミじゃん」


緊張のあまり、出だしからたどたどしく会話は始まる。


いつもと違うあたしに違和感があるらしく、悠希はおもむろにリモコンへ手を伸ばし、テレビを消した。


聞き流して欲しくてせっかく計画していたのに、計画はあっけなく狂い、部屋は静まり音一つない。


「ん~っと…」


「どした?」


「あ~っ…ねえちゃんから電話きて…」


「んで?」


「で…埼玉に行きたいんだけど」


悠希はあたしから突然わけのわからない事を言われ、目をパチパチしている。


「はっ?えっ?どういう意味?あっちに住むの?」


「違っ、1ヶ月だけ、1ヶ月だけあっちで身も心も休養したいかなぁあって…」


前かがみに体を突き出し、目を見開いてあたしは悠希を見つめた。


本当は目をそらしてしまいたいが、大切な話をしているし、決心は固いんだとわかって欲しかった。


「急だな」


「急だね…」


何とも言えないどんよりした流れに耐えきれないが、二人は言葉を選び、話しを進める。


「あ~、歩……元気になるんだな?」


「わかんない…でも、あたし変わりたい」


当事者なのに元気になれるかわからない。


そんな状態でも、渡らなければならない橋もあるし、藁にもすがる思いである。


「あっちから帰って来なくなるとか絶対なし?」


「1ヶ月は1ヶ月。そしたら必ず帰ってくる」


悠希は少し考え、浮かない顔をしていた。


けど、あたしの決心の固さを雰囲気から感じとったのだろう。


「う~ん。わかった。お前の為になるなら…」


「たぶんあたしの為なるはず…なんだけど…」


話を聞いた悠希はうつむくと急に黙り、あたしから目を逸らす。


「悠希?」


「いや、あのさ、行く前にやりたいんだけど…」


「やるってエッチ?」


「バカか!ちげぇよ!」


こんな無謀なお願いをして怒らせてしまい、別れ話をされるのだろうか。


罵られるのだろうかと悪い方向へ考える頭は、てんぱり気味だ。