ティッシュを箱ごと差し出す医者に軽くお辞儀し、鼻水か涙かわからない顔を丸めたティッシュで拭いた。


「先生、パニック障害ってよくわからない…初めて聞いたから…」


「そうだよね。まだ世間にそこまで浸透してない病気だから知らないのが当然。でもこれは誰でもなりうる病気なんだよ。原因がわからず君みたいに悩んでる子がたくさんいるのがこの病気の現状なんだ」


「あの…誰でもなるんですか?どんなに強い人でも?」


「うん。強い人っていうか強く生きようと気を張ってる人でもちょっとした拍子に…なんてザラだよ」


「誰でもなる可能性があるんだ…」


「うん。簡単に説明すると人は皆感情を脳でコントロールする。でも怒りを抑えるには脳から…」


落ち着いたのを見計らったのかそれから医者はパニック障害について深く説明をしてくれる。


“セロトニン”“自律神経”


難しい言葉を並べられ、あたしがいまいちわからず首をかしげていると


「だよね。説明してもわかりずらいと思うんだ。これコピーしてあげるから家でゆっくり読んで。まずは薬を出すんで一緒に治しましょう」


医者は看護師にコピーを頼み、印刷された紙をすぐ手渡してくれた。


薬を飲まなきゃいけないレベルまで病んでいた小さな自分。


ショックを隠しきれず、肩を落とし、うなだれたが、医者とのやり取りが始まった時点で、もう治療は始まりだしたんだ。


止まったら


逃げたら


人間崩壊してしまう。


正直こんな現実を受け入れられず、呆然としてしまったが、言葉を発さず椅子から立ち上がり、医者に一礼をして待合室へとあたしは戻った。


待合室で待つ悠希の姿が目に飛び込み、フラッとよろけ、転び掛けてしまいそうだったが、近くにある手摺りに助けられ掴まって体を支える。


「おい、大丈夫か!?」


あたしに気付いた悠希は走って迎えに来てくれ、あたしの二の腕を掴み、待合室の椅子へ誘導してくれた。


悠希に病気だった事やどんな病気か内容を説明したいが、まだ病気だった自分を受け入れきれず、うまく言葉が発せない。


どう伝えていいのかもわからずにいたが、手にした医者に貰った紙を思い出し、悠希に無言で手渡してみる。


察した悠希は紙を受け取り、両手で包み込んで、紙面に連なった文字を目で追いかけている。