悠希は約束通りあたしの為に休みをとり、見覚えのある大きな県立病院に連れていってくれた。


ここは過呼吸で運ばれたあの寒い夜の病院。


薄ら蘇るあの日の記憶なのか建物の前に立つと、あまりの高さに目が回る感じがしてふらふらする。


空が、雲が歪む。


もしかしたらこれからお世話になる病院かもしれない。


でも本当に体調が悪いだけで、悠希の勘違いかもしれない。


そんな半信半疑のまま悠希と手を繋ぎ、二人で受付けを済ませた。


目前に現れた長く遠い通路を抜け、指示された精神科の前に行き、隔離された別室の前に立つと


「あっ!あっ!」


尋常じゃない声が聞こえる。


恐る恐る扉を開け待合室に入ったら、頭をぶち抜かれる衝撃的な世界があたしの目に飛び込んだ。


同じ場所をうろうろし、止まっては頭を抱え凄まじい奇声を発する男。


一点を見つめとりつかれたようにブツブツ小声で呟く女。


見る人見る人の目が人形染みててゾクゾクする。


あたし、この人達と一緒なの?


小刻みに身震いし、顔面蒼白で呆然と立つあたしに悠希は気付き、繋いだ手を握りしめ


「大丈夫だから。楽になろうな」


少しでも不安を消そうと励まそうとしてくれた。